近年、ビジネス界で注目を集める「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。その波は経理部門にも押し寄せ、「経理DX」という言葉をよく耳にするようになりました。
本記事では、経理DXの定義から具体的なメリット、そして導入方法までを徹底的に解説します。経理業務の効率化や経営判断の迅速化を目指す企業の皆様は、ぜひ参考にしてください。
経理DXとは
経理DXとは、経理業務にデジタル技術を活用し、業務プロセスを根本から変革することを指します。単なる業務の効率化だけでなく、経理部門の役割そのものを戦略的なものへと進化させる取り組みです。具体的には、AIやクラウド技術を活用した自動仕訳や、リアルタイムでの財務状況の可視化などが含まれます。
経理DXが注目されている背景
経理DXが注目を集める背景には、「2025年の崖」があります。「2025年の崖」とは、既存システムのブラックボックス状態を解消できず、データ活用ができないと、2025年以降最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるという問題のことです。よって、経理部門を含めた企業全体で、既存システムのデータを活用することや、新たなデジタル技術を導入してビジネスモデルを変革することが求められています。(参照:経済産業省)
また、柔軟な働き方を望む社員の増加や物価高によるコスト削減の需要増もあり、これらの課題を解決できる方法としても経理部門のDX化が注目されています。
経理部門をDX化する5つのメリット
経理部門をDX化することのメリットは主に5つあります。
- 業務効率の向上
- コスト削減
- 業務の属人化防止
- 働き方改革の促進
- 企業ガバナンスの強化
業務効率の向上
経理DXの大きなメリットに、業務効率の向上が挙げられます。AIやクラウド技術を活用することで、データ入力や仕訳などの定型業務を自動化可能です。膨大なデータを迅速に処理できるため、効率よく業務が進められます。
コスト削減
経理DXは、長期的には大きなコスト削減につながります。人手による作業が減ることで人件費が抑えられるだけでなく、ペーパーレス化によって印刷や保管にかかるコストも削減可能です。
業務の属人化防止
専門的な知識が必要な経理は、担当者が限られてしまうことも珍しくありません。担当者が退職してしまったり、長期休暇に入ってしまったりすると、業務が滞ってしまう可能性もあります。経理DXを導入すれば、誰でも同じように業務が進められるようになるため、業務の属人化を防止できます。
働き方改革の促進
経理DXは、働き方改革の推進にも大きく貢献します。経理はどうしても業務の特性上オフィスでの作業が必要になり、2020年以降のコロナ禍でも出社を余儀なくされる社員が多くいました。
クラウドベースのシステムを導入すると、どこでも必要な書類やデータを確認できる状態にできるため、場所や時間を選ばない柔軟な働き方が可能になります。
企業ガバナンスの強化
経理DXの推進は、企業ガバナンスの強化にもつながります。企業ガバナンスとは、不正や不祥事を未然に防ぐため、公正な判断・運営がされるように監視・統制する仕組みのことです。
属人化が進んでいると業務がブラックボックス化してしまい、不正や改ざんが起こりやすい状態になってしまいます。システムを導入すると操作履歴が記録されるため、何かあったときでもすぐに確認できます。
経理部門をDX化するデメリット
経理DXを進めることにはメリットが多いものの、いくつかのデメリットもあります。デメリットも踏まえたうえで、導入を検討しましょう。
導入・運用コストがかかる
経理DXを進めるために必要なシステムの導入・運用にはコストがかかります。多機能なもの、規模が大きいものはそれだけコストもかさむため、自社にあったシステムを選定することが大切です。
システムを使いこなすための知識が必要
せっかく導入してもシステムを使いこなせなければ意味がありません。従業員向けの講習会を開いたり、マニュアルを作成したりと使い方を理解してもらうように努めましょう。システムは導入時にサポートが受けられる場合が多いので、相談してみるのもおすすめです。
経理部門で活用できるDXツール
DXツールにはできることに応じて多くの種類があります。ここでは、経理部門でおすすめのDXツールをご紹介します。
クラウド会計ソフト
クラウド会計ソフトは、さまざまな会計業務をオンラインで実行できるシステムです。パソコンやスマートフォンでいつでもどこでも申請・承認ができるようになるため、申請者も承認者もストレスフリーにやり取りできます。法改正などで対応が必要なものもアップデートで順次更新されていくので、対応が漏れてしまう心配がありません。法改正があっても迅速に対応できるところもクラウド会計ソフトの便利な点です。
ワークフロー
ワークフローシステムは、経費精算や支払いに関する稟議書などをシステム上で申請、承認できるものです。申請から承認までの時間を短縮できるため、決裁までのスピードが上がります。承認がなかなか下りない場合にはシステムで承認状況を確認して、どこで滞っているのかをチェックできるのも便利なポイントです。
AI-OCR
AI-OCRは、紙や画像のテキスト部分を文字認識して電子化できるAIツールです。経理部門では、請求書や領収書などの読み取りで活用できます。受け取った請求書や領収書を参照しながら入力する必要がなくなるため、業務効率化につながります。また、文字や数字を間違えて入力してしまう人為的ミスの防止にも役立つツールです。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
RPAとは、人間が行う作業を自動化できる技術です。定型的な業務は、手順やルールを教えることで人間が行うよりも早いスピードで処理できるようになります。たとえば、システム間でのデータ転記やレポートの作成、指定した宛先にメールに添付して送るなどが可能です。
BI(ビジネスインテリジェンス)ツール
BIツールとは、データを集計し、さまざまな意思決定をサポートするツールを指します。経理業務であれば原価や経費の分析、決算処理などで活用可能です。Excelなどで集計するよりも精度が高く、データから読み取れることを補足してくれるため、経理の適正化だけでなく経営判断にも活用できます。
経理DXの具体的な導入ステップ
実際に経理をDX化する際の具体的な流れを6ステップで解説します。
1:課題を洗い出す
経理DXの導入は、現状の分析から始まります。まずは、現在の経理業務のフローを可視化し、非効率な部分や改善が必要な箇所を洗い出しましょう。また、社員へのヒアリングを通じて、現場の声を反映させることも重要です。
2:目標を考える
現状分析を踏まえて、具体的な目標を設定しましょう。たとえば、「月次決算にかかる時間を30%削減する」「経理部門の残業時間を50%削減する」などです。そして、目標を達成するための戦略を策定します。この際、短期的な効果と長期的な成長の両方を見据えることが重要です。
3:導入するツールを選ぶ
目標と戦略を実現するためのDXツールを選定します。クラウド会計システム、RPA、AI-OCRなど、さまざまなツールがあるため、自社の規模や業種、予算に合わせて最適なものを選びましょう。ただし、ツールの導入自体が目的化しないよう注意が必要です。あくまでも、経営課題の解決や業務改善が目的であることを忘れてはなりません。
4:業務プロセスを再設計する
選定したツールを活用して、業務プロセスを再設計します。再設計する際には、単に既存の業務をデジタル化するのではなく、業務そのものの必要性を見直すことも重要です。たとえば、これまで当たり前のように行っていた承認プロセスを簡略化したり、データの入力方法を変更したりすることで、さらなる効率化が図れる可能性があります。
5:段階的に導入する
経理DXの導入は、一気にすべてを変えるのではなく、段階的に進めることが大切です。たとえば、まずは請求書の電子化から始め、次に仕訳の自動化、そして最終的に全体の業務フローを刷新する、といった具合です。
また、新しいシステムやプロセスについて、十分な社内教育を行うことも欠かせません。従業員全員がDXの意義を理解し、積極的に活用できるよう支援しましょう。
6:効果測定と継続的な改善を行う
経理DXの導入後は、定期的に効果を測定し、継続的な改善を行うことが重要です。当初設定した目標に対する達成度を評価し、必要に応じて戦略や使用ツールの見直しを行います。また、社員からのフィードバックを積極的に集め、使いやすさや効果の向上に活かしましょう。
まとめ
経理DXは、デジタル技術を活用して経理業務を根本から変革する取り組みです。業務効率化やコスト削減、働き方改革の促進、ガバナンスの強化など、さまざまなメリットが得られます。導入時には、目標設定や適切なツール選定、段階的な業務プロセスの再設計などが必要です。経理DXの導入を検討している場合は、まず現状の課題を洗い出し、どのようなツールが適しているか探ってみるところから始めてみましょう。
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