学習指導内容の増加や働き方改革の推進などに伴い、昨今の教育現場ではさまざまな課題が指摘されています。代表的なものとしては「深刻な教員不足」「子どもの学力低下」「ICT教育の遅れ」が挙げられます。
なかでもICT教育の普及は諸外国と比べて遅く、まずはデジタル技術を活用した学習環境の整備から始める必要があります。また、デジタル技術の推進は教員の業務負担を削減するためにも欠かせない取り組みです。
本記事では、教育現場におけるDXの事例や推進する際の注意点などを解説します。教育業界に従事される方はぜひ参考にしてください。
教育現場が抱える課題
教育現場が抱える課題は多岐にわたりますが、なかでも深刻なのは教員不足、子どもの学力低下、そしてICT教育の遅れです。
深刻な教員不足
少子高齢化による人口減少や、教員の働き方改革の進展に伴い、教員不足はますます深刻化しています。実際に文部科学省の調査によると、令和3年度始業日時点の小・中学校の「教師不足」人数は合計2,086人と深刻な状況にあるようです。
少人数指導や個別指導が求められる一方で、教員一人当たりの生徒数が多くなり、十分な指導ができていない状況が生まれています。
子どもの学力低下
国際的な学力調査の結果、日本の子どもの学力は低下傾向にあることが指摘されています。NHKによると、とくに数学的リテラシーの分野ではシンガポールやマカオなどの成長国より下位にあることがわかりました。また「自律的に学習する自信」については、OECD加盟国のうち最下位の結果です。
このような結果を受けて、今後の日本教育では「知識の詰め込み型」の教育から「思考力や問題解決能力を育む」教育への転換が求められています。
ICT教育の遅れ
ICT教育の遅れも大きな課題として挙げられます。多くの教育現場では、デジタル技術を活用した教育が未だ十分に進んでいない状況です。
実際にOECDが進めているPISA2022のポイントによると、日本の授業におけるICTの利用頻度はOECD諸国と比べて低いことがわかっています。デジタルネイティブ世代の子供たちはアナログな授業環境になかなか慣れず、学習意欲を低下させる要因となっています。
教育現場のDX推進事例
これらの課題を解決するために、多くの教育現場ではDXの取り組みが進められています。
具体的な事例としては、業務管理システムの導入、eラーニングやデジタル教科書の導入、AIやVRの活用などが挙げられます。
業務管理システムの導入
業務管理システムを導入することで、教員の業務負担を軽減し、より多くの時間を生徒指導にあてることができます。具体的には、出欠管理や成績管理などの事務作業、職員同士のコミュニケーションなどを効率化することができます。
代表的なところでは「ヨリソル(株式会社プラスアルファ・コンサルティング)」や「デジタル校務(株式会社内田洋行)」などが挙げられます。多機能なシステムがオールインワンで入っているケースもあれば、個別にカスタマイズで機能追加するケースもあります。
eラーニングやデジタル教科書の導入
eラーニングやデジタル教科書は、時間や場所に縛られない学習を可能にし、生徒一人ひとりの学習進度や興味に合わせて、最適な学習内容を提供することができます。生徒の学びやすさも向上し、主体的な学習を促せる点がポイントです。また、教員の指導負担が削減されることもメリットとして考えられます。
実際に、AIを活用した学習システム「atama+(atama plus株式会社)」は、全国4,000以上の塾教室で採用されています。生徒一人ひとりの学習状況にあった「自分専用カリキュラム」を提供し、最適な学習環境の実現を進められています。
AIやVRの活用
AIは、生徒の学習データを分析し、個々の学習状況に合わせて学習内容を調整したり、学習の進捗を予測したりすることができます。また、VRは臨場感のある学習体験を提供し、生徒の学習意欲を高めることにつながります。
実際に、愛媛大学教育学部附属中学校では授業の振り返りでAIが活用されています。生徒たちが学んだ内容や疑問点を入力することで、AIが即座にフィードバックをするようです。また、長崎北高校では英作文の添削や長文読解のサポートにAIを利用し、文法や表現方法の理解を深めることに活用されています。
参考:「ChatGPT」などの生成AI 学校でどう教える?子どもへの影響は? | NHK | WEB特集 | AI(人工知能)
参考:どう付き合う?チャットGPT 長崎北高生、ガイドライン作りに挑戦 使い方を実験・検討 - 長崎新聞
角川ドワンゴ学園N/S高等学校では、2021年4月から「VR学習」を導入。VR教材を活用して、1,000本以上の課外授業を行うようです。模型や図形などの授業に必要なアイテムは(VR空間上で)手にとって体験できるため、没入感のある授業を実現できます。
参考:N予備校がVR教育に対応 〜1,000本以上の課外授業がVRで受講可能に〜 | N高等学校・S高等学校・R高等学校
教育現場でDXを進める際の注意点
教育現場でDXを進める際には、下記のポイントに注意が必要です。
- セキュリティ対策の徹底
- マニュアルや研修の整備
- 導入後のアフターフォロー
セキュリティ対策の徹底
IT関連のプロジェクトでは、セキュリティ対策の徹底が不可欠です。とくに個人情報を含むデータを取り扱う場合には、不正アクセスや情報漏えいのリスクを最小限に抑える必要があります。プロジェクトの開始前からリスクを洗い出して「問題の発生を防ぐこと」「問題が発生しても対応できるようにすること」の2つを整理しておきましょう。
マニュアルや研修の整備
新しいシステムやツールを導入する際には、マニュアルや研修の整備が必要です。教職員や生徒が問題なく使いこなせるように、まずはマニュアルの整備を進めます。そして、テキストでは伝えきれない使用感などについては、動画で残したり、別途研修を行うなどの準備をしておきましょう。
導入後のアフターフォロー
関連して、新しいシステムやツールを導入する際には、アフターフォローの体制も必要です。具体的には、システムのトラブルに対応したり、利用者からの質問に答えたりなど、困った際に気軽に相談ができる窓口を用意します。
アフターフォローが疎かな状態では、運用が形骸化してしまう恐れがあります。また、前提としてDXはシステムを導入することが目的ではありませんが、とはいえ多くの現場では新しいシステムやツールの活用が欠かせません。社内のIT化を進めるためにも、継続的なフォローを根気良く続けていくことが重要です。
まとめ
教育現場におけるDXの取り組みは、教員不足や学力低下といった課題を解決し、より良い学びの環境を創出するために重要な取り組みです。今後、多くの教育現場で普及/浸透することで、未来の教育を大きく変える可能性を秘めています。
しかし、DXを成功させるためにはセキュリティ対策やマニュアル・研修の整備、アフターフォローの体制構築など、さまざまな準備が必要です。IT分野に専門性を持った社員がいない場合、プロジェクトを最後まで進めるのが難しい可能性もあるため、専門の支援会社に依頼をするのが良いでしょう。
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