近年、人工知能(AI)の技術は、ビジネスのあらゆる現場で浸透しています。なかでも注目を集めているのが「自律型AI」と呼ばれるものです。従来までのAIが、人間によって与えられた指示に基づいてタスクを実行するのに対して、自律型AIは自ら目標を設定し、計画を立て、学習を通じて改善する能力を持つと言われています。
本記事では、自律型AIとは何か、その仕組みや具体的な活用事例、導入のメリットや注意点などについて解説します。社内でAI技術を積極的に活用したい経営者や管理職の方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
自律型AIとは

自律型AIとは、人間からの明確な指示がなくても、自らの判断で状況を理解し、目標を設定して、最適な行動を実行できるAIシステムのこと。事前にプログラミングされたルールやデータに基づいて動作する“従来までのAI”とは一線を画したものです。
業務の遂行に主軸が置かれており、連続したタスクの実行が可能なため、複数のチャネルやAIエージェントと連携し、これらが相互に働きあうことで、目標達成までのプロセスを最適化することができます。曖昧な目標を解釈して具体的なタスクに落とし込む能力を持ち合わせているため、複雑な問題でも柔軟に対応することができます。
人手不足が深刻化する日本国内では、業務の自動化や効率化といった観点から、労働力を補完する役割として注目が集められています。
代表的なサービス
自律型AIの技術はまだ発展途上の段階ですが、すでにいくつかのサービスが登場しています。これらのサービスは、自然言語による指示に基づいて、自律的にタスクを処理できるものです。
AgentGPT
AgentGPTは、ユーザーが自然言語で目的を設定することで、その目的を達成するために必要なタスクを自律的に計画・実行するツールです。たとえば「最新のAI研究に関する情報を要約してほしい」といった指示を与えると、AgentGPTはWebサイトを検索し、情報を抽出したうえでレポートを作成してくれます。
また、ウェブブラウザ上で比較的簡単に操作できるため、環境構築やライブラリのセットアップなどの技術的な知識なしで利用できる点が特徴です。
AutoGPT
AutoGPTは、GPT-4などの大規模言語モデルを基盤としたオープンソースの実験的なアプリケーションです。AgentGPTと同様に目標を設定することで、それを達成するための具体的なアクションに落とし込み、自律的に行動します。
利用を開始するには環境構築が必要になりますが、セットアップさえ完了すればプラグインやAPI連携を通じて機能を大幅に拡張することが可能です。ただし、その自律性の高さゆえに、予期せぬ動作をしたり、無限ループに陥ったりする可能性もあるため、定期的な観測は欠かせません。
BabyAGI
BabyAGIは、特定の目標を達成するために自律的に動くAIプログラムです。日本人生まれの投資家・中島洋平氏によって開発されたもので、すべてノーコードで作成されています。
BabyAGIは、最初にユーザーがタスクを与えると、そのタスクを小さなサブタスクに分解して順番に実行していきます。実行されたタスクの結果は、新たなタスクの生成や、既存のタスクの優先順位づけに利用されます。「AGI(汎用人工知能)」の名がつきますが、実際にはタスク駆動型(=特化型)のAIシステムだと考えられるでしょう。
生成AIとの違い
自律型AIと混同されやすいものとして「生成AI」が挙げられます。生成AIは、与えられたデータや指示に基づき、テキスト・画像・音声・動画などを生成するAIモデルの総称です。代表的な例として「ChatGPT」「Midjourney」「Stable Diffusion」などのツールが挙げられます。
自律型AIと生成AIの大きな違いは「自律性」の有無にあります。生成AIは、あくまで人間の指示やプロンプトに応じてコンテンツを生成するのに対し、自律型AIは自ら目標を設定し、計画を立案・実行するという能動的な側面を持ちます。
もちろん自律型AIがタスクを実行する過程で、生成AIの技術を活用する可能性は十分に考えられます。たとえば、自律型AIがレポートを作成する際には文章生成の部分で大規模言語モデルを利用したり、マーケティングキャンペーンの画像を生成する際には画像生成AIを利用することも考えられます。
自律型AIの仕組み

自律型AIは、下記の仕組みに基づいて複雑なタスクを自律的に実行します。
1.状況把握
2.目標設定
3.計画策定
4.行動実行
5.学習と改善
1. 状況把握
自律型AIは、センサーやデータフィードを通じて周囲の環境を認識し、その情報を解析して現在の状況を理解します。自然言語処理(NLP)技術を用いてテキスト情報を解析したり、画像認識技術を用いて視覚情報を理解したりすることで、複雑な状況を正確に把握します。
2.目標設定
人間によって与えられた指示や、自らの状況把握で得た情報に基づいて、達成すべき具体的な目標を設定します。この目標設定のプロセスには、過去の経験や知識、そして現在の状況を考慮した高度な推論能力が求められます。
3.計画策定
設定された目標を達成するために「どのような行動を・どのような順序で実行すべきか」を計画します。この計画策定には、タスクの分解やリソースの割り当て、実行可能性の評価などが含まれます。強化学習や探索アルゴリズムなどが活用され、最適な行動計画を見つけ出します。
4.行動実行
策定された計画に基づいて、実際に行動を実行します。これには、ソフトウェアの操作や物理的なロボットの制御、他のシステムとの連携などが含まれます。
5.学習と改善
行動の結果を評価し、その経験から学習します。強化学習アルゴリズムを用いることで、成功した行動は強化され、失敗した行動は抑制されます。また、状況把握や計画策定のプロセス自体も、経験を通じて継続的に改善されます。
自律型AIの活用事例

自律型AIは、その高い適応力と問題解決能力によって、さまざまな分野での活用が期待されています。ここでは、いくつかの具体的な活用事例を紹介します。
営業活動
営業活動においては、自律型AIは顧客データの分析に基づいて有望なリードを特定したり、顧客ニーズに合わせた最適な提案資料を自動で作成することにも活用できます。また、顧客との過去のやり取りや行動履歴を学習することで、よりパーソナライズされたコミュニケーションを実現し、成約率の向上にも貢献します。営業プロセス全体を自動化し、営業担当者の負担を軽減することが期待されます。
マーケティング活動
マーケティング活動においては、自律型AIは市場動向や顧客の嗜好変化をリアルタイムに分析し、最適なマーケティング戦略を立案・実行することが期待されます。たとえばSNSの投稿内容やWebサイトのアクセスログを解析し、ターゲット顧客に合わせた広告を自動で配信したり、キャンペーンの効果を測定して改善策を自動で実施することが可能です。これにより、マーケターはより戦略的な業務に集中できるようになります。
カスタマーサポート
カスタマーサポートにおいては、自律型AIは顧客からのお問い合わせ内容を理解し、FAQデータベースや過去の対応履歴を参照して、適切な回答を自動で生成することができます。複雑なお問い合わせに対しては、人間のオペレーターにスムーズに引き継ぐことも可能です。これにより、24時間365日のサポート体制を構築し、顧客満足度の向上とサポートコストの削減を実現できます。
実際にセールスフォース社では、サポートサイトの強化に向けて、24時間365日稼働するAIコンシェルジュ「Agentforce」を採用。毎週数千件に上る顧客からの問い合わせに対して、迅速かつ正確な回答を実現しています。その結果、コストのかかるエスカレーションは半減し、人間が対応するケースはわずか1%に留まっているようです。
参照:Salesforce、世界最大規模の自律型AI導入事例としてAgentforceを自社で運用 - Salesforce
また、国内でもGMOメディア株式会社は、お問い合わせに特化した自律型AIエージェントを開発し、前年同時期と比較して70,000件以上のお問い合わせ件数を削減することに成功しているようです。
参照:自律型AIエージェントの開発により業務工数68%以上減! さらに顧客満足度は12.5ポイント向上 | GMOインターネットグループ株式会社
このように、自律型AIを活用することでカスタマーサポートの業務は効率化され、従業員の業務環境の改善や、キャリア選択の拡大などにつなげることができます。
システム開発
システム開発においては、ユーザーの要望を理解し、具体的な機能要件に落とし込む作業までサポートします。また、簡単なコードの自動生成やコードレビューの実施なども可能です。
実際にCognition社では、世界初の完全自律型AIエンジニア「Devin」を開発。GitHubが提供するGitHub Copilotのようにコード補完をするのではなく、与えた情報をもとに自律的に開発を行うのが特徴です。人手不足が叫ばれるIT業界で、開発リソースを必要なときに補充できるツールとして、注目が集められています。
参照:Cognition | Introducing Devin, the first AI software engineer
金融業界
金融業界においては、自律型AIは不正取引の検知やリスク管理、投資ポートフォリオの最適化など、多岐にわたる応用が期待されています。過去の取引データや市場動向を学習することで、人間では見落としがちなパターンを検出し、高度な意思決定を支援することが可能です。ただし、金融取引においては高度な信頼性と安全性が求められるため、自律型AIの導入には慎重な検討が必要です。
自動車業界
自動車業界においては、自律型AIは自動運転技術の中核を担うと考えられています。センサーからの情報をリアルタイムで解析し、周囲の状況を認識したうえで、危険を回避しながら最適なルートで走行する能力は、まさに自律型AIの応用例と言えるでしょう。また、車両のメンテナンス時期を予測したり、ドライバーの運転行動を学習して安全運転を支援したりする機能も期待されています。
自律型AIを活用するメリット

自律型AIの導入は、組織にさまざまなメリットをもたらします。
業務効率化やコスト削減につながる
自律型AIを活用することで、繰り返し行われる定型作業を自動化し、人間の手を介さずにタスクを完了させることができます。これにより、人間はリソースをより創造的で付加価値の高い業務に集中できるため、業務効率の向上とコストの削減が期待されます。また、24時間365日稼働できるため、時間や場所にとらわれない業務遂行が可能になります。
近年では、労働人口減少の影響を受けて、最低賃金が年々上昇しています。令和6年度の全国加重平均額は1,055円となり、10年前(平成26年度)の780円と比べて35%も高い結果となりました。また、2019年から働き方改革関連法案が順次施行され、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得などが義務付けられており、各社には従来までとは異なる大幅な業務効率化が求められています。自律型AIを活用することで、人間の対応が必要となる業務量が減少し、業務効率化やコスト削減につながることが期待されています。
業務負担の軽減につながる
複雑で時間のかかるタスクを自律型AIに任せることで、従業員の精神的・肉体的負担を軽減させることができます。とくに高度な専門知識や集中力を必要とする業務においては、自律型AIを活用することで、人的エラーの削減や業務品質の向上にもつながります。
従業員の業務負担が軽減されることで、離職・休職者の割合が減少し、業務が安定化することが予想されます。人手不足の影響を受けて、各社では新規雇用者を確保する難易度が年々上昇しており、離職・休職者の減少は組織としての安定性を担保することにつながります。
臨機応変にタスクを実行できる
従来までの自動化システムは、事前に定義されたルールに基づいて動作するため、予期せぬ事態や環境の変化に対応することが難しいという課題がありました。一方で自律型AIは、状況をリアルタイムで認識し、学習を通じて最適な行動を自律的に判断できるため、変化の激しい環境でも、柔軟かつ効果的にタスクを実行することができます。
自律型AIを活用する際の注意点

自律型AIには数多くのメリットがある一方で、その導入と活用には下記のような注意点も存在します。
・導入準備に時間やコストがかかる
・IT分野の専門人材が必要になる
導入準備に時間やコストがかかる
自律型AIシステムを導入するためには、高度な専門知識を持つ人材の確保やシステムの開発・構築、既存システムとの連携など、多大な時間とコストがかかる場合があります。また、導入後もシステムの保守運用には継続的な投資が必要です。
IT分野の専門人材が必要になる
自律型AIシステムを効果的に活用するためには、AI技術に関する深い知識にとどまらず、データ分析やシステム開発などの専門スキルを持つ人材が不可欠です。これらの人材の育成や採用は難易度が高く、組織によっては大きな課題となる可能性があります。
まとめ

自律型AIは、人間による明確な指示がなくても、自らの判断で目標を設定して計画・実行・学習を通じて進化する次世代のAI技術です。営業・マーケティング・カスタマーサポート・金融・自動車など、さまざまな分野での応用が期待されており、業務効率化やコスト削減、業務負担の軽減といった数多くのメリットをもたらすことが期待されています。
しかし、その導入と活用には初期投資や専門人材の確保といった課題も存在します。自律型AIの可能性を最大限に引き出すためには、これらの注意点を十分に理解したうえで、慎重な計画と段階的な導入を進めていくことが重要です。とくにビジネスの現場で導入を進める際には、実装までのスピード感も求められるため、導入にあたっては専門の支援会社に依頼をするのがおすすめです。
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