「2025年の崖」は、日本企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れによって直面する重大な経営リスクです。経済産業省の試算では、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が発生するとされています。
企業の多くがレガシーシステムの維持費高騰やIT人材不足に直面しており、DXが進まなければ、競争力の低下は避けられません。
本記事では、「2025年の崖」について解説し、企業が今すぐ取り組むべき対策を紹介します。
2025年の崖とは?経産省レポートが指摘する問題点

ここでは、経済産業省が公表したDXレポートをもとに、2025年の崖について詳しく解説します。
参照:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~|経済産業省
DXレポートが示す日本企業の現状と課題
DXの重要性は多くの企業で認識されているものの、実際の取り組みは十分に進んでいないのが現状です。DXレポートによると、その最大の障壁となっているのが「レガシーシステム」の存在です。
レガシーシステムとは、古くなったITシステムを指し、次のような問題を引き起こします。
- 新しい技術に対応できない→クラウドやAIなどの最新技術を導入しにくく、競争力が低下する
- 保守・運用コストが増大→老朽化したシステムの維持には多くのコストがかかる
- IT人材の不足→レガシーシステムを扱える技術者が減少し、システム維持が困難になる
また、経営層のDXに対する理解不足や現場の抵抗も大きな課題として挙げられています。多くの企業では、「既存のシステムで問題なく運用できている」という考えから、DXの必要性を十分に認識できていません。こうした意識の差が、DXの推進を妨げています。
DXレポートでは、これらの課題を克服し、早急にDXを進めることが、日本企業の持続的な成長に不可欠であると指摘しています。
2025年の崖で起こりうる最大12兆円の経済損失とは
DXが進まない場合、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が発生すると試算されています。この数字が示すリスクは非常に大きく、企業経営にとどまらず、日本経済全体に深刻な影響を与える可能性があります。
2025年となった今でもDXが進まなければ、損失はさらに拡大する可能性が高いため、早急な対策が求められているのです。
2025年の崖問題は「2025年問題」「2025年の壁」とは違う?
「2025年の崖」に似た言葉として、「2025年問題」や「2025年の壁」があります。それぞれ異なる課題を指すため、混同しないようにしましょう。
- 2025年の崖:DXの遅れによる経済損失(IT・ビジネス分野)
- 2025年問題:団塊の世代が75歳以上となり、医療・介護費が急増する問題(社会保障分野)
- 2025年の壁:2024年の時間外労働上限規制により、人手不足が深刻化する問題(建設・物流分野)
これらの課題は、どれも日本社会や企業にとって無視できない重要なテーマです。それぞれの問題を正しく理解し、適切な対応策を講じることが求められます。
2025年の崖がもたらす具体的な課題

「2025年の崖」によって引き起こされる主な課題について解説します。
レガシーシステムによる技術的負債の増大
古い技術で構築されたレガシーシステムは、長年の運用によってシステムが複雑化し、新しい技術との連携が困難になると「技術的負債」になってしまいます。
技術的負債が蓄積すると、システムの改修や新機能の追加に多大なコストと時間がかかるようになります。例えば、最新のクラウドサービスやAIを活用しようとしても、古いシステムの制約によってスムーズに導入できないケースは想像できるでしょう。
その結果、市場環境の変化に適応できず、競争力を失うリスクが高まります。企業が持続的に成長するためには、レガシーシステムからの脱却が避けて通れない課題となっています。
IT人材不足と保守・運用コストの高騰
レガシーシステムを扱える熟練のIT技術者は高齢化が進んでおり、人材不足が深刻化しています。古いプログラミング言語やシステムに精通した技術者が退職することにより、システムの維持管理を担う人材がいなくなるという問題が発生しているのです。
こうした状況により、システムの保守・運用を外部委託するケースが増加しています。しかし、外部委託には高額なコストがかかるため、企業の負担はさらに増していく一方です。
また、限られたIT人材がレガシーシステムの維持管理に追われることで、DXを推進するための新しい技術の習得や新システムの開発に割けるリソースが不足するという課題もあります。このように、レガシーシステムの維持は、DXの推進を妨げる大きな要因となっています。
サイバーセキュリティリスクの増大
レガシーシステムは、最新のセキュリティ対策に対応していないことが多く、サイバー攻撃の標的になりやすいという問題を抱えています。
古いシステムには、最新のセキュリティパッチが適用されていなかったり、そもそもアップデートが提供されていなかったりするケースが少なくありません。このため、脆弱性が放置され、サイバー攻撃を受けた際に情報漏えいやシステム障害が発生するリスクが高まります。
変化する市場への対応遅れ
現代のビジネス環境では、新しい技術やビジネスモデルをいかにすばやく取り入れられるかが重要です。しかし、レガシーシステムを使い続けることで、市場の変化に柔軟に対応できなくなるという問題が発生します。
例えば、新しいデジタルサービスを提供しようとしても古いシステムでは対応できず、導入が遅れてしまうケースが考えられます。
DXを推進し、クラウドやAIなどの最新技術を活用する企業が増える中、レガシーシステムに依存している企業は、成長の機会を逃し、市場から取り残される可能性が高まるでしょう。
2025年の崖を克服するための対策

「2025年の崖」を乗り越えるためには、企業ごとに適切な対策を講じ、DXの推進を加速させる必要があります。ここでは、具体的な解決策について解説します。
DX推進システムガイドラインの活用
経済産業省は、企業がDXを進めやすくするために「DX推進システムガイドライン」を策定しています。このガイドラインは、経営戦略の策定やシステム構築の進め方、社内体制の整備など、DXの実行に必要な指針がまとめられているものです。現在はデジタルガバナンス・コードと統合され「デジタルガバナンス・コード2.0」として公表されています。
企業はこのガイドラインを活用することで、自社のDX推進における方向性を明確にし、現状の課題を可視化できます。定期的に見直しが行われ、最新の技術動向や業界のベストプラクティスを反映しているため、常に最新の情報を参照することが重要です。
参照:デジタルガバナンス・コード|経済産業省
IT資産の見える化と分析
DXを推進するためには、まず自社のIT資産の現状を正確に把握することが欠かせません。
具体的には、システムの種類や構成、利用状況、維持コストなどを詳細に調査し、「どのシステムがレガシー化しているのか」「不要なシステムが重複していないか」などの課題を洗い出します。
IT資産の可視化により、どのシステムを優先的に刷新すべきかを判断しやすくなるため、DXのロードマップを設計するための重要な指針となります。
<h3>段階的なシステム刷新計画の策定
レガシーシステムの全面刷新は、コストやリスクが大きく、現実的ではありません。そのため、優先順位を設定し、段階的に刷新していく戦略が求められます。
まずは、影響範囲の小さいシステムや比較的移行が容易なシステムから着手し、徐々に基幹システムへ移行するアプローチが有効です。
刷新計画を立てる際は、スケジュールや予算、人員計画を具体的に策定し、関係部署と密に連携しながら進捗を管理しましょう。
アジャイル開発やクラウド活用の推進
変化の激しいビジネス環境に対応するためには、アジャイル開発やクラウドの積極的な活用が鍵となります。
アジャイル開発は短期間で開発・テストを繰り返す手法で、従来のウォーターフォール型開発に比べて変化への柔軟な対応が可能です。市場や顧客ニーズの変化に合わせ、迅速に改善を重ねながらシステムを進化させられます。
また、クラウドサービスの活用も大きなメリットがあります。クラウドを導入することで、初期投資を抑えつつ、拡張性のあるシステム運用が可能に。最新の技術を迅速に活用できるようになります。
DX人材の育成・確保
DXを成功させるためには、新しいスキルを持つ人材の確保と育成が不可欠です。
企業は、データ分析、AI、クラウド、サイバーセキュリティなどの専門スキルを持つ人材の育成を推進し、社内研修や外部のセミナー・研修を活用することが求められます。特にリスキリング(新しいスキルの習得)を推奨し、既存社員のスキルアップを図ることが重要です。
また、必要に応じて外部の専門家やDXコンサルタントの力を借りることで、より効果的にDXを推進できます。採用活動を強化し、DXをリードできる人材の確保も検討すべきでしょう。
ベンダー企業との新たな関係構築
従来の「発注者と受注者」という関係から脱却し、ベンダー企業とパートナーシップを築くことが、DXの成功につながります。ベンダー企業を単なる外注先ではなく、DX推進の戦略的パートナーとして位置づけ、共に課題解決に取り組む姿勢が求められます。
また、契約形態の見直しも重要です。「成果報酬型」や「共創型契約」など、新たな枠組みを導入し、互いにメリットを生む関係を構築することで、DXのスピードと品質を向上させることができます。
2025年の崖対策に成功した企業の取り組み

「2025年の崖」への対応に成功している企業は、どのような施策を講じているのでしょうか。DXの推進や業務改革を通じて、この課題を克服した企業の具体的な事例を紹介します。
アサヒグループ
アサヒグループホールディングス(アサヒGHD)は、DXを単なるデジタル化ではなく「ビジネス変革(BX)」と位置づけ、新たな価値を生み出す「Value Creation(VC)取組」を推進しています。
その一環として、データ活用人材の育成に注力し、3段階の研修プログラムを導入しました。このプログラムは、データ分析の基礎を学ぶ「VC基礎研修(e-learning)」、実践的なスキルを習得する「コアスキル集中研修」、そして高度な専門知識を深める「専門スキル研修」の3段階で構成されています。
この研修により、社員がデータを活用するスキルを身につけ、ビジネス現場での実践力を強化。デジタル技術を駆使した業務改革を加速させています。
参照:熱意を持った社員を育成し、新たな価値を創出:アサヒグループの挑戦 | DOORS DX
味の素
味の素グループは、DXを単なる業務効率化ではなく「企業変革の加速」と捉え、デジタル技術を活用して新たな価値を生み出す取り組みを進めています。目指しているのは、従業員自らが企業風土を変え、社会全体に影響を与える食品メーカーです。
味の素グループは、DXを4つのステージに分けて推進しています。これらの取り組みを支えるのが、グループ全体の無形資産をデータとして共有・活用する「ADAMS(Ajinomoto Data Management System)」です。データドリブンな経営を推進し、業務改善や新たな価値創出を加速。あわせてDX人材の育成やITセキュリティの強化にも取り組んでいます。
こうしたDX戦略を通じて、味の素グループは「食と健康の課題解決企業」として、社会変革をリードすることを目指しています。
参照:DXで味の素社はどう変わる? 〜社会変革をリードする食品メーカーを目指して〜<味の素社のDX徹底解説 第2弾> | 味の素グループ
日本航空
日本航空(JAL)は、DXを活用した既存ビジネスの高度化と新規事業の創出に成功し、その取り組みが評価され、2021年・2024年に「DX銘柄」に選定されました。
特に、JALグループの航空機整備を担うJALエンジニアリングでは、「ゼロゼロ100」の理念を掲げ、航空機の安全性と運航の効率化を追求しています。「ゼロゼロ100」とは、「お客さまが直面する不具合をゼロにする」「航空機整備に関わる社内の関係者が直面する不具合をゼロにする」「定時出発率を100%にする」という3つの目標で構成されているJALグループが掲げる品質向上の指針です。
この実現に向け、AIを活用した故障予測技術やエンジン内部検査ツールを導入し、整備業務の効率化と安全性の向上を進めています。
参照:JALグループが切り拓く未来のDX戦略:航空業界から広がる変革の波|Fullstar
まとめ
「2025年の崖」は、DXの遅れによる競争力の低下や経済損失を招く深刻な課題であり、企業の成長を大きく阻害する要因となります。
企業が今取るべきアクションは、「自社のIT資産を可視化し、DX戦略を明確にすること」です。課題を洗い出し、段階的な改革を実行することで、DXの遅れによるリスクを回避し、新たなビジネス機会を創出できます。
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