近年注目を集める生成AI(Generative AI)の技術は、さまざまな分野で活用が進んでいます。膨大なデータを学習することで、新しい文章・画像・音声・動画などのコンテンツを生成する能力を持つこの技術は、クリエイティブな分野だけでなく、ビジネスの現場にも多大な影響を与えています。
本記事では、生成AIが実社会においてどのように活用されているのか、具体的なユースケースを中心にご紹介します。生成AIの可能性と実用性を知ることで、ビジネスの現場で新たな価値を生み出すヒントが得られるはずです。生成AIの活用をご検討されている経営者・ご担当者の方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
生成AIとは

生成AI(Generative AI)とは、人工知能に関する技術のひとつであり、入力データを基に新しいデータやコンテンツを生成するAIのことを指します。この技術の特徴は、単なるデータ分析や予測のレベルを超えて、創造的なアウトプットを生み出せるところにあります。たとえば、文章・画像・音声・動画の生成に利用されており、近年では大規模言語モデル(LLM)や画像生成モデルが多くの分野で注目を集めています。
生成AIの基盤となる技術は、ディープラーニングや自然言語処理(NLP)です。代表的な生成AIには、OpenAI社の「ChatGPT」や「DALL-E」、Googleの「Gemini」などがあります。これらのモデルは膨大なデータセットを学習し、入力に応じて文脈に合った出力を生成する能力を持ちます。
生成AIは、創造性を必要とする業務の効率化や、新しいビジネス価値の創出において貢献が期待されています。たとえば、商品企画書の作成・広告デザイン・カスタマーサービスの効率化など、現在でもさまざまな分野で活用が進んでいます。このように、生成AIは従来までのAI技術と比較して、企業や個人に幅広い活用の可能性を提供しています。
生成AIのユースケース一覧

生成AIは多岐にわたる分野で活用されており、その可能性は無限大だといわれています。代表的なユースケースは下記の通りです。
・リサーチ/ブレインストーミング
・要約/翻訳
・データ分析
・コンテンツ作成
・設計/デザイン案作成
・プログラミング
・チャットボット
リサーチ/ブレインストーミング
生成AIは、Webサイトや文献などから情報を収集し、要点を整理する「リサーチ」としての役割も果たします。2022年12月には対話型検索エンジン「Perplexity AI」がリリースされました。このサービスでは、ユーザーからの質問に対して、引用元を併記した回答が生成されることで注目が集められています。従来まで課題として挙げられていたファクトチェックが容易になり、正しく、素早いリサーチが可能になりました。また、生成AIはリサーチした情報をもとに、新しいアイデアを生み出す「ブレインストーミング」としても利用可能です。AIが提示する新たな視点やアイデアは、人間の創造性をさらに引き出す可能性があります。
要約/翻訳
生成AIを活用することで、長文のテキストを短時間で要約し、ポイントを簡潔に整理することができます。また、多言語間の翻訳も可能なため、たとえば外国語の文書を日本語に変換したり、逆に日本語を他言語に翻訳することで、グローバルな業務の効率化にも活用できます。
実際に、株式会社オルツが提供する「AI GIJIROKU」では、Zoom・Skype・Teamsなどのビデオチャットツールと連携をするだけで、リアルタイムで会議の議事録を作成可能です。30か国語に対応しているため、外国人メンバーとの会話も日本語で記録できます。音声認識精度は99.8%、業種別の音声認識機能を強化しているため、各業界の専門用語も認識して正しく記録します。
データ分析
生成AIは、データ分析の自動化もサポートします。指定されたデータや条件を基に、傾向や洞察を抽出し、分かりやすいレポートを生成することが可能です。データ分析を行うには、従来まで「収集」や「加工」に時間やスキルが求められ、限られたメンバーしかアクセスができないという課題がありました。しかし、生成AIを活用することで誰でも・いつでもデータを確認できるようになるため、経営判断だけでなく、各部署での迅速な意思決定が期待できます。
コンテンツ作成
生成AIは、メール・企画書・記事・コピーライティングなど、あらゆる文章作成に対応可能です。また、画像や動画の作成にも活用されており、広告やプロモーション素材の制作効率を飛躍的に向上させます。これにより、クリエイティブな作業を迅速に進めることができます。
たとえば株式会社伊藤園では「お~いお茶 カテキン緑茶」のテレビCMにおいて、生成AIで作成した仮想タレントを起用しました。この取り組みは、タレントの不祥事によるCMの差し替えリスクや、出演料による広告宣伝費の高騰などを防げることから、広告制作の新たな可能性として注目を集めています。
参照:AIタレントを起用した「お~いお茶 カテキン緑茶」のTV-CM第二弾!新作TV-CM「食事の脂肪をスルー」篇を、4月4日(木)より放映開始 | ニュースルーム | 伊藤園 企業情報サイト
設計/デザイン案作成
設計書やデザインの素案作成にも生成AIが役立っています。建築設計やプロダクトデザインでは、初期段階のアイデア出しやイメージ作成を効率的に進めるためにAIが活用されています。
たとえばパナソニックホールディングスでは、電動シェーバー「LAMDASH」シリーズにおいて、生成AIが設計したモーターの採用を検討中のようです。同社によれば、生成AIが設計したモーターは、熟練技術者が設計したモーターよりも出力値が15%高いことがわかっています。このように、生成AIが人間の研究レベルを超える場面も増えており、今後ますます各社で実用化の熱が高まる見込みです。
参照:人知を超えた構造のモーターを生んだパナソニックのAI、熟練者を凌駕 | 日経クロステック(xTECH)
プログラミング
生成AIは、プログラミングコードの自動生成や既存コードの修正にも利用されています。システム設計やデバッグを効率化することで、開発者の作業負担を軽減するだけでなく、開発スピードの向上、引いては競争力の強化にもつながります。とくに複雑なアルゴリズムの生成やコードレビューの自動化に活用可能で、今後さらに機械学習モデルが進化することで、より複雑なプログラミング言語の生成も期待できます。
そもそも日本国内では、IT技術者の不足が叫ばれて久しく、経済産業省の調査によれば「2030年には最大79万人のIT人材が不足する」ことが予想されています。その一方で、AIやDXに関する注目が集まるなかで各社での開発需要も高まりを見せています。このような状況のなかで、生成AIによるプログラミング業務の効率化は、人手不足を解消する鍵として注目が集められています。
チャットボット
生成AIを活用したチャットボットは、カスタマーサポートやFAQ対応においてすでに重要な役割を果たしています。自然言語処理を利用してユーザーの質問に正確かつ迅速な回答ができるほか、24時間365日の対応が可能になるため、顧客満足度の向上につながります。また、社内からのお問い合わせ対応にも活用することで、バックオフィス業務の効率化が進み、本来取り組むべき業務に時間を使えるようになります。
生成AIを利用した企業事例

生成AIを実務で積極的に採用している企業事例を紹介します。
LINEヤフー株式会社
LINEヤフー株式会社は、ソフトウェア開発プロセスの効率化を目的として、GitHubが提供するAIペアプログラマー「GitHub Copilot for Business」を導入しました。本システムでは、コーディング作業において生成AIがコード記述の提案をしてくれるものです。エンジニアが効率的に業務を進められるため、作業スピードの向上が期待できます。実際に、エンジニア1人当たりのコーディング時間は1〜2時間/日ほど減ったようです。
参照:LINEヤフー、ソフト開発に生成AI 作業1日2時間効率化 【イブニングスクープ】 - 日本経済新聞
株式会社セブン-イレブン・ジャパン
株式会社セブン-イレブン・ジャパンは、生成AIを商品企画に導入し、企画期間を最大10分の1まで短縮することを目指しています。全店舗の販売データやSNSにおける消費者の声を分析し、トレンドに合った商品を素早く市場に投入することが目的のようです。新商品の開発サイクルを加速させることで、他社には負けない競争力の強化が期待されます。
参照:セブンイレブン、商品企画の期間10分の1に 生成AI活用 【イブニングスクープ】 - 日本経済新聞
パナソニック コネクト株式会社
パナソニック コネクト株式会社は、OpenAIの大規模言語モデル(LLM)をベースにしたAIアシスタントサービス「ConnectAI」を社内で展開しました。国内グループ全社員9万人を対象にした本取り組みでは、利用開始から3ヶ月程が経過した時点で累計約26万回(1日あたり約5,000回)の利用が確認できたようです。当初の想定では、1日あたり1,000回程の利用を見込んでいたため、想定の5倍以上も活用されている計算になります。なかでも利用が多いのは「質問」で、次点で「プログラミング」「文章生成」「翻訳」と続くようです。技術に関する質問や事業アイデアのブレインストーミングなど、利用用途は幅広く、従業員それぞれが創意工夫して利用していることがわかります。
参照:利用回数は想定の5倍超、ChatGPT全社導入から3カ月でのパナソニック コネクトの利用実績:製造ITニュース(2/2 ページ) - MONOist
株式会社大林組
株式会社大林組は、建築物のファサードデザインを生成できるAI技術を開発しました。本システムでは、建築設計の初期段階で作成が求められるファサードデザイン(建物の正面から見た外観)を自動で生成し、設計用プラットフォーム「Hypar」上で3Dモデル化することが可能です。従来までは提案内容が顧客のニーズに合致してない場合、スケッチ〜CADを使用したデザイン案の作成までを再度行う必要がありましたが、本システムの活用によって大幅な時間短縮が実現されます。また、瞬時にいくつものデザイン案を生成できるため、顧客満足度の向上も期待できるでしょう。
参照:建築設計の初期段階の作業を効率化する「AiCorb®」を開発 | ニュース | 大林組
日本コカ・コーラ株式会社
日本コカ・コーラ株式会社は、広告制作に画像生成AIツールを利用し、クリエイティブなプロセスの効率化を図っています。実際に2023年12月には、渋谷スクランブル交差点においてOOH広告を展開しました。また、同社が使用した画像生成AIツール「Create Real Magic」は一般公開されており、過去にコカ・コーラで使用された広告データも活用されているようです。
参照:広告に用いた生成AIを公開 コカ・コーラ、クリスマス施策で
株式会社メルカリ
株式会社メルカリは、フリマアプリ「メルカリ」の出品時に必要となる文章作成を一部簡略化する機能を導入しました。この機能の導入により、最短3タップ(約15秒)で出品が完了します。もともと同社では「出品時の商品情報の入力に負担を感じる」「売りたい不用品があるけれど、出品作業が面倒」といった、お客様の声を収集していたようです。本取り組みによって、ユーザーが迅速かつ簡単に商品を出品できることから、さらなる流通量の拡大が期待できるでしょう。
参照:メルカリ、「AI出品サポート」の提供を開始。出品体験をさらに簡単にアップデート | 株式会社メルカリ
株式会社横浜銀行
株式会社横浜銀行は、日本アイ・ビー・エム株式会社と協力して、融資審査業務における稟議書の作成において生成AI活用の実証実験を行いました。同行の検証結果によると、実装した場合、年間で最大19,500時間の業務効率化が見込まれるようです。また「どのような情報をお客様からヒアリングするべきなのか」といった新しい気付きを得ることもでき、行員のスキル向上も期待できることが発表されています。
参照:IBM Japan Newsroom - ニュースリリース
生成AIを利用する際の注意点

生成AIを安全かつ効果的に利用するためには、下記のポイントに注意が必要です。
・著作権や肖像権などに注意する
・社員のITリテラシーを高める
・セキュリティ対策を強化する
著作権や肖像権などに注意する
生成AIを利用する際には、法律の観点でいくつか気をつけるべき点があります。1つは著作権の侵害です。生成AIがアウトプットを出す過程で、インターネット上の情報を学習データとして利用している可能性があります。とくに販促物のキャッチコピーやクリエイティブなどで「類似性」「依拠性」の観点から、他者の著作物を侵害していないかに気をつけましょう。生成AIの法律的な取り扱いについては、専門の弁護士や支援会社に相談することをおすすめします。
社員のITリテラシーを高める
生成AIを効果的に活用するには、社員の基礎的なITリテラシーの向上が求められます。定期的な研修や教育プログラムを通じて、AIの使い方だけでなく、その仕組みから理解できるようにすることが重要です。そうすることで、各社員が現場での活用方法についてさらに深い議論を進めることができます。
セキュリティ対策を強化する
社内で生成AIを利用する際には、情報漏洩に最大限の注意を払う必要があります。顧客データや機密情報を入力してしまうと、AIが学習してしまい、外部に情報が流れてしまう可能性があります。このようなリスクを防ぐには、入力内容についてのルールを整備したり、AIが学習データを利用しないようにオプトアウトしたりといった対策が挙げられます。また、デバイスや利用するシステムのセキュリティ環境を改めて見直し、トラブルが発生する可能性を最小限まで抑えることが重要です。
まとめ

生成AIは、業務の効率化や新たなビジネス価値の創出を実現する革新的な技術です。その活用方法はリサーチ・要約・データ分析・コンテンツ作成など多岐にわたり、業種業界を問わず、さまざまな場面で幅広く利用されています。その一方で、社内で導入を進める際にはいくつかの注意点があります。たとえば、著作権や肖像権の侵害に注意したり、AIをうまく活用できるように社員のITリテラシーを高めたり、情報漏洩を防ぐためにセキュリティ対策を強化したりなど、前もった準備を進める必要があります。
また、生成AIの導入〜運用には高度なITスキルが求められます。実際に開発を行う際にはもちろん、プロジェクトの企画から管理まで、専門のエンジニアとのコミュニケーションが必要となるためです。トレンドの変化も早いため、社内だけでキャッチアップを行うのは難しいと感じる企業が多いでしょう。現場に適した導入を進めるには、専門の支援会社に依頼をするのがおすすめです。
株式会社オルツでは、パーソナル人工知能を中心としたAI活用やDX推進を支援しています。課題のヒアリングからコンサルティング、実証実験まで一気通貫で行うほか、実際の開発や運用などの技術的な支援も可能です。少しでもご興味のある方は、下記のお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。