近年、AIによる画像認識の精度は飛躍的進化を遂げており、さまざまな分野で活用の幅が広がっています。とくに顔認証や文字認識の技術は、日常生活やビジネスシーンでも利用されたことがある方も多いのではないでしょうか。実際に画像認識の技術を活用することで、各企業はユーザビリティや生産性の向上が見込めます。
本記事では、ビジネスの現場で画像認識を活用した企業事例をご紹介します。食品・不動産・アパレル・インフラなど、幅広い業種業界の事例をご紹介しますので、これから画像認識の活用をご検討されている企業様はぜひ参考にしてください。
画像認識とは
画像認識とは、コンピュータや機械が画像に写っているものや特徴を識別する技術のことです。具体的には、画像から色・形・模様・質感などの特徴を抽出し、それらの情報をもとに「何の画像なのか」を判断します。
近年では、ディープラーニングや小型カメラデバイスの発展により、画像認識の精度が飛躍的に向上しています。画像認識に必要な学習データの記録が容易になり、AIが高い精度で識別することが可能になりました。そのため、現在では日常生活でも実用できるレベルまで進化を遂げています。
代表的な実用例としては、下記のようなものが挙げられます。
- 顔認証:スマートフォンやセキュリティシステムなどで利用
- 画像検索:Google画像検索などで利用
- 自動運転:道路上の物体や歩行者の検出に利用
- 医療画像診断:CTやMRI画像から病変を検出することに利用
今後も画像認識やカメラデバイスの技術発展に伴い、活用の幅はより広がっていくことが予想されます。
画像認識を活用した事例
元来、画像認識の技術はバーコードから始まったものです。それが近年では、顔認証・文字認証・異常検出などの用途で活用されており、比較的大量の学習データを収集できる大手企業を中心に導入のシーンが広がっています。
ここでは、実際に画像認識を活用した企業事例をご紹介します。
株式会社NTTドコモ
株式会社NTTドコモは、クロススポーツマーケティング株式会社と共同で「ハイライト動画自動作成サービス」を開発しました。3人制バスケットボールのプロリーグ「3x3.EXE PREMIER」にて、利用者は試合・チーム・選手などを指定することで、AIが抽出するハイライト動画を閲覧することができます。
本サービスでは、大きく分けて「AI解析部分」と「編集アプリ部分」の2つで構成されています。前者では画像認識処理を行い、ハイライトと思われるコマをマーキングします。そして後者では、利用者が欲しい条件をもとに、適合したコマを切り出します。本機能では、数秒の調整や音声の合成などもできるため、SNS上でのシェアやチームのプロモーションなどにも活用可能なようです。
(参照)3人制バスケットボールリーグ「3x3.EXE PREMIER」にAIを用いた「ハイライト動画自動作成サービス」を提供
キユーピー株式会社
キユーピー株式会社は、惣菜の原料検査工程に画像認識を導入しました。ディープラーニングを活用した高い精度の画像解析により、原料検査の自動化・効率化を推進しています。
従来までの検査装置では、色差などの画像処理で不良品のパターンを学習させる手法が一般的です。しかし、それでは無限のパターンがある色や形すべてを判別することが困難でした。そのため本検査装置では、AIに学習させた「良品以外」をすべて「不良」として検出することで、精度の飛躍的向上を実現しています。
同社では、今後も多種多様な原料の検査装置として、グループ内外を問わず展開を進めていくようです。
(参考)AIを活用した原料検査装置をグループに展開 | ニュースリリース | キユーピー
三菱地所株式会社
三菱地所株式会社は警備会社や画像解析ベンダーと協業し、AIが「異常検知」「転倒検知」「侵入検知」をリアルタイムで把握する警備体制を構築しました。まずは2023年1月より丸ビル・新丸ビルにて導入を開始。異常が発生した際にリアルタイムで状況を把握し、早期に警備員を派遣・対応することができます。
また、同社では丸の内エリアの店舗で、混雑状況・歩行者交通量・来街者属性などをAI画像解析で数値化します。それらのデータを外部データ(売上・天候・周辺イベントなど)とかけ合わせて分析することで、より効果的な店舗運営や販促活動に活用されていくようです。
(参照)次世代型施設運営モデルを深化・拡大、Society5.0実現へ | 三菱地所
株式会社ファーストリテイリング
株式会社ファーストリテイリングでは、コーディネートアプリ「StyleHint(スタイルヒント)」を開発し、画像認識技術を活用した検索機能を実装しました。
本機能により、利用者は写真を投稿するだけでコーディネートを検索することが可能です。自分の欲しい洋服に類似したユニクロ・ジーユーの商品を見つけて購入することができます。実店舗に足を運ばずにイメージに合う商品を購入できるため、買い物の利便性を大幅に向上させることができます。
(参照)【Story】ファッションEC時代。実店舗を武器とするユニクロは、どう戦うか。 | GLOBAL FELLOWSHIP | FRグループ 新卒採用
楽天グループ株式会社
楽天グループ株式会社では、フリーマーケットアプリ「ラクマ」の出品監視において、ディープラーニングを活用した画像認識技術を導入しました。
同サービスでは、安心・安全な取引ができるプラットフォームを目指すために「禁止出品物が出品されていないか」を常に厳しく監視していました。今回は、さらなる監視体制の強化を目的として、指定した禁止出品物画像と類似した画像を検出するシステムを導入しています。
同社では、今後も最新技術を活用することで、安心・安全で、利便性の高いプラットフォームの提供を目指していくようです。
(参照)楽天グループ株式会社: ラクマ、AI(ディープラーニング)を活用した画像認識技術を出品監視に導入 | お知らせ
大阪ガス株式会社
大阪ガス株式会社では、大阪シティバス株式会社の路線バスを用いて「工事現場をAIで自動認識する車載カメラ」の試験運用を開始しました。
大阪ガスでは、道路に埋設されているガス管付近で同社以外による掘削工事が行われる場合は、ガス管を破損させないように事前協議をお願いしているようです。しかし、なかには連絡がなく工事が行われるケースもあったため、従来まではパトロールを行い、ガス管の破損防止に取り組んでいました。
今回、同社が開発した車載カメラでは、AIが工事である確率の高い画像を抽出し、事務所にいるオペレーターが連絡のない工事かどうかを判断する仕組みのようです。パトロール業務をAIに代替してもらうことで、従業員の業務生産性の向上が期待されています。
(参照)大阪ガス:「工事現場をAIで自動認識する車載カメラ」によるガス管パトロール業務の試験運用開始について~ガス管が埋設されている道路における他事業者工事の状況把握~
富士フイルム株式会社
富士フイルム株式会社では「COVID-19肺炎画像解析プログラム」を開発し、新型コロナウイルス肺炎における胸部CT検査のソリューション提供を開始しました。
本ソフトウェアでは、COVID-19肺炎の特徴的な画像所見を有する可能性を「高・中・低」の3段階で提示します。着目した領域をマーキングし、医師の診断業務を支援することで、効率的な検査工程を実現しました。
(参照)3D画像解析システム SYNAPSE VINCENT | 富士フイルム [日本]
アサヒビール株式会社
アサヒビール株式会社は、日本電気株式会社と共同で「輸入ワイン中味自動検査機」を開発しました。従来まで目視で行われていた輸入ワインの検品工程を、赤外光照明やカメラ、画像処理技術などを活用した自動検査にすることで効率化を目指します。品質水準は維持したうえで、最適な管理体制の実現が期待されています。
本取り組みは、単純な業務効率化にとどまらず、将来的に見込まれる労働力不足に対応した取り組みとなります。また、作業員の成熟度による品質差が発生しないため、検査品質の均一化が図れます。
同社では、全国3ヶ所合計4ラインで自動検品を導入予定で、時間あたりの検品生産性を3倍にすることを目指しているようです。
(参照)ニュースリリース 2019年5月17日|アサヒビール
佐川急便株式会社
佐川急便株式会社は、SGシステム株式会社・フューチャーアーキテクト株式会社と共に、配送伝票入力作業のAI化を実現させました。本取り組みにより、配送伝票情報の読み取りから既存システムへのデータ連携まで自動化し、作業時間を月間約8,400時間短縮させます。
本システムの認識精度は99.995%以上。運搬過程で文字の擦れや傷が発生しても、問題なく数字を読み取ることができます。高い品質を維持しつつ、作業負荷とコストを大幅に削減することが期待されています。
(参照)【佐川急便、SGシステム】佐川急便の配送伝票入力業務を自動化するAIシステムが本稼働|ニュースリリース
JFEスチール株式会社
JFEスチール株式会社は、日本電気株式会社・NECソリューションイノベータ株式会社と共に、製鉄所の安全推進を目的に画像認識技術を導入しました。
具体的には、大量の人物画像をAIに学習させることで人物検知を実現しました。また、AIが立ち入り禁止エリアを認識し、作業者が進入した場合に警報を発するシステムを実装しました。同社では、グローバルな競争環境のなかで最新ICT技術の活用が必要不可欠であると考え、今後も技術開発の推進を図っていくようです。
(参照)国内業界初となるAI画像認識による安全行動サポート技術の導入について|JFEスチール株式会社
日本空港ビルディング株式会社(羽田空港)
羽田空港を運営する日本空港ビルディング株式会社は、2021年7月から搭乗手続き「Face Express」にて顔認証技術を導入しました。
本技術の導入により、お客様は顔写真を登録するだけで、パスポートを提示することなく搭乗手続き(チェックイン・手荷物預け、保安検査場入口ゲート、搭乗ゲート)が可能になりました。「顔パス」を実現することで、確認時間を短縮したり、非接触で衛生的になったりなど、さまざまなメリットが考えられます。
(参考)顔認証による搭乗手続き”Face Express”のご利用について
山万株式会社(山万ユーカリが丘線)
山万ユーカリが丘線では、2024年6月から顔認証技術で乗車できるようになりました。専用サイトから顔写真やクレジットカードを登録し、改札のタブレット画面で顔認証をしてから乗車をします。
「顔パス」で乗車できるシステムは全国初の取り組みで、既に沿線で運行しているバスでも導入されたようです。同社は本取り組みを通じて、衛生的で新たな生活様式に対応した公共交通の提供を目指されています。
(参照)顔認証・QR乗車券の乗り方について | ユーカリが丘 公式タウンポータルサイト
画像認識を導入する際の注意点
画像認識を導入する際には、下記のポイントに注意をする必要があります。
- 導入する目的を確認
- 学習データの集計が必要
- リリース後の運用も欠かせない
導入する目的を確認
AIを導入する際には「AIを導入する」という手段が先行にならないように、必ず目的を確認することが重要です。社内で「なぜAIの導入が必要なのか」「課題を解決するには、果たしてAIが最適な手段なのか」を改めて検討してから導入を進めましょう。
そもそもAIの導入は一定のコストがかかる取り組みです。とくに画像認識の分野では、学習データの蓄積や導入後の運用なども重要になります。また、社内でAIを専門とした部署がない場合には、担当者がキャッチアップをする必要があり、想定以上の工数がかかる可能性があります。そのため、必ず目的を明確に定めたうえで、プロジェクトを立ち上げるようにしましょう。
学習データの集計が必要
精度の高い画像認識を行うためには、事前のデータ蓄積が重要です。高画質なカメラ機材を用いて画像を収集し、適切なデータと不適切なデータを分けたうえで、AIに学習をさせます。
仮に誤ったデータを学習させてしまうと、AIの判断も誤ったものになります。データセットの質・種類・量それぞれを万全に整えたうえで、用意を進める必要があります。そのため、プロジェクトを進める際には、スケジュールにバッファを設けておくのがよいでしょう。
リリース後の運用も欠かせない
AIは導入して終わりではなく、導入後の運用が重要になります。現場からのフィードバックやモニタリングの結果をもとに、学習データを更新・改善していくことで、画像認識の精度を高めていくことが求められます。とくに品質管理の分野でAIを活用する場合には注意が必要です。事前に定めたチェックリストをもとに、定期的な点検を行う体制構築を検討しておきましょう。
AIの導入には、システム開発の分野にとどまらず、運用改善まで進められる人材が必要になります。社内でIT人材がいない場合には、専門業者にアウトソーシングすることも視野に導入を進めましょう。
まとめ
近年、画像認識の技術はディープラーニングや小型カメラデバイスの発展により、飛躍的な向上を見せています。実際にその精度は、日常生活やビジネスシーンでも活用できるレベルまで達しています。
ビジネスシーンでAIを導入する際には、いくつかのポイントがあります。自社で開発・導入を進める場合には一定の人的工数がかかるため、事前の目的設定が重要です。また、とくに画像認識の分野では、学習データの手配が大変重要になります。限りなく正しい判断をAIに学習させるためには、導入前だけでなく、リリース後にも継続的な更新・改善が求められます。
しかし実際には、最先端の技術であるため、導入〜運用までの工程を円滑に進められる人材がいない場合もあるでしょう。とくにAIを専門とした部署がない場合、情報のキャッチアップから進める必要があり、想定以上に時間がかかるケースもあります。すでに人手不足が深刻化している状況のなかで「新たに工数を割くことは難しい」という企業様も多いのではないでしょうか。
そのため、AI技術の導入を検討する場合には、専門の業者に依頼をするのがおすすめです。また、そもそも「AIの導入が可能なのか」「可能な場合はどれくらいの予算・スケジュール感が必要なのか」を相談してみるのもよいでしょう。
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