自然言語処理(NLP)とは、人間の日常的に使っている言葉(自然言語)をコンピュータが理解できるようにする技術のことです。自然言語処理の進歩と活用によって、文章生成や要約、翻訳、分析など、従来では不可能だった多くのことが可能になりつつあります。
本記事では、自然言語処理の基本や仕組みを押さえた上で、実際の活用方法や活用事例を15例ご紹介します。ぜひ、導入の際の参考にしてください。
自然言語処理 とは
自然言語とは、人間が日常のコミュニケーションの中で使用する言語のことです。これに対して、コンピュータが理解できる言語のことを、プログラミング言語といいます。
自然言語処理(NLP)とは、AIが自然言語を分析する技術のことで、人間が日常的に使っている言葉をコンピュータが理解できるようにする技術をいいます。いわばコンピュータに言葉を教える分野です。
自然言語処理の仕組み
自然言語処理は複雑で高度な仕組みで動いているため、準備段階の構築と4つの解析を行う必要があり、以下のような手順で進めます。
- 準備段階として「機械可読目録(辞書)」と「コーパス」を構築する
- 「形態素解析」「構文解析」「意味解析」「文脈解析」4つの解析を行う
順番に解説します。
準備「機械可読目録(辞書)/コーパス」
自然言語の分析に入る前に、「機械可読目録」と「コーパス」という準備が必要です。
機械可読目録は、図書館や資料館に貯蔵されている情報を処理するために設計されたデータフォーマットのことで、コンピュータが人間の言葉を理解する助けになります。
コーパスは、文章の使用方法を構造化してデータベース化したもののことをいいます。動詞や形容詞などの識別方法などが記載されており、コンピュータはコーパスをもとに状況に適した言葉の意味や使い方を理解していくのです。
年々、コンピュータ自体の処理性能や記憶容量が増えているため、より大規模なコーパスを利用して処理を行うことができつつあります。
4つの解析「形態素解析/構文解析/意味解析/文脈解析」
機械可読目録とコーバスの準備ができたら、4つの解析に進みます。それぞれについて解説します。
①形態素解析
形態素解析では、文章を最小単位に分けます。
例えば「弟はスタイリッシュなスマホとパソコンを買った」という文章に形態素解析を行うと、「弟(名詞)/は(助詞)/スタイリッシュな(形容詞)/スマホ(名詞)/と(助詞)/パソコン(名詞)/を(助詞)/買った(動詞)」となります。
②構文解析
構文解析は、単語同士の関係性を解析します。文節間などの係り受け構造を検出して、図式化していく作業です。
先ほどの例文を構文解析すると、3種類の解析結果が出ます。
a「弟は/スタイリッシュな/スマホとパソコン/を買った」
b「弟は/スタイリッシュなスマホ/と/パソコン/を買った」
c「弟はスタイリッシュなスマホと/パソコンを買った」
③意味解析
意味解析は、文章が持つ意味を解析することをいいます。
先ほどの例文を構文解析したところ、3つの種類の解析結果が出ました。意味解析すると以下のようになり、それぞれ異なる意味が導き出されます。
a「弟は/スタイリッシュな/スマホとパソコン/を買った」
→弟はスマホとパソコンを買った。スマホもパソコンも両方スタイリッシュだ。
b「弟は/スタイリッシュなスマホ/と/パソコン/を買った」
→弟が買ったスマホはスタイリッシュだが、パソコンがスタイリッシュかどうかは不明。
c「弟はスタイリッシュなスマホと/パソコンを買った」
→弟はスタイリッシュなスマホと一緒に、パソコンを買いに行った。
④文脈解析
文脈解析は、文と文とのつながりを解析し、関係性を把握します。文章と文章の関係性を把握するためには、複雑な情報が必要になるため、文脈解析は難易度の高い作業です。実用的なシステム構築に向けて研究が進められています。
自然言語処理の活用事例15選
自然言語処理は私たちの周りでどのように使われているのでしょうか。ここでは、自然言語処理を活用した事例をご紹介します。
対話型AI (チャットボット)
対話型AIのチャットボットとは、Webサイトなどで、テキストベースの問い合わせにチャット形式で対応するAIです。自然言語処理(NLP)の技術を駆使することで、人間のような自然な会話をリアルタイムで行えるよう日々進化しています。
チャットボットの導入事例として、帝人株式会社の例があります。
帝人株式会社では、以前からイントラサイトに情報が散在しており、社員が目当ての情報を探す際に、バックオフィスへの問い合わせが必要でした。そのためバックオフィスの社員は、対応に追われ、本来の業務を進められない、同じ質問に何度も答える必要があるなどの問題を抱えていました。
チャットボットを導入したところ、社員はバックオフィスへの問い合わせをすることなく情報にアクセスできるようになり、バックオフィスの負担軽減を実現したとのことです。
対話型AI (ボイスボット)
対話型AIのボイスボットとは、AIによる自動音声応答のことで、おもに電話オペレーターの業務を代行してくれるシステムをいいます。
ボイスボットの導入事例として、オリックス生命保険の例をご紹介します。
オリックス生命保険は、株式会社PKSHAのボイスボットを導入して、月間3,500件を超える住所変更受付を自動化しました。導入以前に懸念されていた顧客満足度の低下はなく、従業員の労力削減につながったという結果が出ています。
テキストマイニング
テキストマイニングとは、整理されていないテキストデータを抽出し、分析することをいいます。具体的には、記述内容を単語や文節ごとに区切り、単語同士の相関関係や傾向などを定量的に分析します。
AIの自然言語処理を活用することで、自由記述であってもアンケート集計や分析が可能となってきました。以前は、集計担当者が内容を読み抽出し、さらに分析をする必要がありましたが、AIの読み取り機能と自然言語処理を活用すれば、自動化が可能になります。
画像生成
AIによる画像生成も、テキストで伝えられたイメージを生成するため、自然言語処理が使われています。画像生成のおもな種類は「イメージをテキストで伝えて画像を生成するケース」と「元となる画像とテキストから画像を作成するケース」の2つです。
画像生成ができるAIはさまざまなものがありますが、代表的なものには「Stable Diffusion」「Midjourney」などが挙げられます。
文章作成
テキストで指示を出すと文章を自動生成する文章生成にも自然言語処理が活用されており、精度は日々向上しています。
文章作成の代表的なAIに、OpenAIの「ChatGPT」やAnthropic社の「Claude3」が挙げられます。
AI
対話型の音声操作に対応した「AIアシスタント」を搭載しているスピーカーをAIスピーカーといいます。画面を操作したり、テキストを入力したりすることなく、会話でやりとりできるため、より手軽に操作できるのが魅力です。
AIスピーカーの仕組みとしては、音声認識技術で人間の声をテキストに変換します。テキスト化したものを自然言語処理によって理解し、指示通りに動いてくれるのです。
AIスピーカーは、Amazon AlexaやGoogleアシスタント、AppleのSiriが有名です。
AI-OCR
OCR(光学認識技術)は紙文書のデータを読み込んでデジタル化する技術のことで、OCRをAIによって行う技術をAI-OCRといいます。AI-OCRは、従来のOCRでは難しかった、手書きの文字やフォーマットがバラバラの請求書のような文書もデータ化してくれる点が優れています。
今後は、ペーパーレス化を進める企業も増えるため、紙で残された情報をデータ化する作業にAI-OCRは大いに役立つでしょう。
AI-OCRの例に、「Googleドライブ」や「Microsoft OneNote」、LINE株式会社「CLOVA
OCR」などが挙げられます。
検索エンジン
自然言語処理は検索エンジンにも活用されており、2018年10月にGoogle「BERT」が発表されたことで大きな注目を集めました。BERTは文章と文章の間にある文脈が読めるようになったことが画期的でした。
そのようななか、最近注目されているのが「Perplexity」という検索エンジンです。チャット形式でさまざまな情報を検索できるというものです。回答の際に、参照したWebページのリンクを付け加えることや、鮮度の高い情報を参照できることが強みといわれています。
機械翻訳
機械翻訳もAIが得意とする分野ですが、長く複雑な文章ほど自然言語処理の活用が必要になります。機械翻訳ができるツールを「AI翻訳ツール」と呼び、AIと機械学習を駆使して、テキストを翻訳します。
機械翻訳は、テキストの直訳であるため細かなニュアンスを表現するまでに至っておらず、プロの翻訳家に比べて精度は劣るのが難点。一方で、多言語に対応している点やスピード感、だれでも使える点などは大きなメリットです。
Ai翻訳ツールには「DeepL Pro」「XMAT」「Mirai Translator 」などがあります。
文章要約
文章要約とは、自然言語処理を活用し、テキストデータから要約文の生成を行うことです。
AIはテキストデータを解析し、単語やフレーズ、文脈を考慮して重要な情報を抽出。そして抽出した情報を組み合わせ、簡潔な要約文を作成します。AIによる文章要約は、議事録作成や効率的な情報収集などに役立ちます。
文章要約ツールは「ChatGPT」をはじめ、「Notta」「ELYZA DIGEST」などがあり、読み込める文字数や議事録向けなど、それぞれ特徴が違います。
VoC
VoCとは「Voice of Customer」の略で、顧客の声から商品開発やサービス改善などに役立つヒントを取り出す分析手法のことです。
アンケートやコールセンター、SNSなど、お客様の声が含まれるものなら何でも材料になり、分析結果は商品やサービス改善、顧客満足度の向上につながります。集めた材料をAIで読み込み、前述のテキストマイニングの手法を用いて分析します。
感情認識・ ネガポジ分析
感情認識AIとは、人間の感情を読み取ることができるAIのことです。表情や声、文章のほかに、脈拍や発汗、瞳孔の動きなどの変化も捉えて感情を読み取ります。
感情認識には、文章、声、表情、生体といった4つのデータを用いますが、自然言語処理が役立つのは文章の感情認識です。基本的なデータと判定基準を学習させておき、日々データを蓄積させることで精度が上がるといえます。
まだ導入事例は少ないですが、感情認識AIは、今後コールセンターなどへの導入が期待されています。
危険予知
自然言語処理を活用したAIは、過去の災害データに基づいて、予想される危険や安全への対策を提示する危険予知にも役立っています。危険予知は、おもに建設現場や工場などで活用されており、労働災害の防止に役立ちます。
例えば、インフロニア・ホールディングス株式会社はSOLIZEの自然言語処理AIを活用した「危険予知システム(SpectA KY-Tool)を共同開発。現場の作業内容を入力するだけで、「災害事例」と「予想される危険・安全指示」を提示し、作業者の安全意識向上にもつながっています。
バーチャルヒューマン
バーチャルヒューマンとは、コンピュータによって生成されたデジタルキャラクターのことで、自然言語処理により適切な応答ができるようになりつつあります。
例えば、2015年に夫婦CGクリエイターTELYUKAが生み出した「Saya」(日本の女子高生風のバーチャルヒューマン)は、AIの活用により、人間とコミュニケーションができるようになりました。
かな文字変換(予測変換)
すでに生活に浸透している予測変換も自然言語処理の技術が使われています。パソコンやスマートフォンで文章を作成する際に、一つの文字を入力すると、ひらがな、カタカナ、漢字、絵文字が表示されるというものです。
技術の発達にしたがって、短い単語のみだった変換が、長い文章や文脈に沿った変換も可能になりつつあります。
まとめ
自然言語処理(NLP)によって、人間が日常的に使っている自然言語をコンピュータが理解できるようになり、AIの活用場面が大きく広がりました。
ボイスボットやかな文字変換、翻訳など、比較的浸透しているものもあれば、文章生成や画像生成、要約など、今後精度が上がっていくであろう活用場面もあります。さらにOCRやテキストマイニング、検索エンジンなど、AIの力を借りることによって今後大きく役立つ可能性があるものもあり、自然言語処理の汎用性の高さが伺えます。今後も自然言語処理やAIの技術は、社会のさまざまな部分で活用されていくことでしょう。
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