近年では、深刻な人手不足によるデジタルシフトへの流れから、さまざまな業種業界でAI技術の活用が進んでいます。アパレル業界でも同じく、業務効率化やクリエイティブ制作、在庫管理などの場面で活用を始める企業が増えてきました。
本記事では、アパレル業界の企業がAIを活用する方法や実際の企業事例をご紹介します。また、活用する際の注意点も解説しますので、導入前にぜひ本記事を参考にしてください。
アパレル業界が抱えている課題
昨今のアパレル業界では、下記のような課題を抱える企業が多いです。
- 慢性的な人手不足
- トレンド予測の難しさ
- オンライン販売への対応
慢性的な人手不足
アパレル業界では、深刻な人手不足が課題として挙げられます。とくに販売員や接客スタッフの不足は、店舗運営に大きな支障をきたしています。
人手不足の背景として、ひとつの原因は労働環境の過酷さが考えられます。長時間労働や低賃金労働など、アパレル業界の労働環境は決して良い状況とは言えません。そのため、人材流出が多く、また人材確保も難しいというのが実情です。少子高齢化が進むことで、社会全体で労働人口が不足するため、今後はさらに採用活動が難しくなることが予想されます。
そのため、アパレル業界では人手不足は今すぐ向き合わなければならない課題のひとつであるといえます。
トレンド予測の難しさ
アパレル業界は、トレンドの変化が非常に早いことが特徴です。消費者の好みは毎年変わるため、流行のアイテムを的確に予測することは非常に難しいでしょう。
従来までは、過去の販売実績や市場調査に基づいて需要予測を行うことが一般的でした。しかし、これらの方法では、急激なトレンド変化に対応することができません。その結果、在庫過多になり、収支状況の悪化を引き起こしてしまうおそれがあります。
オンライン販売への対応
急速するEC需要の拡大にあわせて、業界全体でオンライン販売への対応が求められています。しかし、多くのアパレル企業では、旧来のシステムや社員のITリテラシーの問題から、オンライン販売への対応を進めることができていない状況にあります。
また、店舗販売とオンライン販売ではやり方が異なる部分も多く、戸惑いが発生している企業も多いでしょう。たとえばオンライン販売では、顧客との直接的な接点が少なく、顧客満足度を高めることが難しかったり、顧客が商品を手に取ることができないため、商品画像や商品説明での訴求が重要になったりなど、初めは苦戦するところも多いはずです。
このように、オンライン販売への取り組みは障壁が高く、課題として挙げられている企業が多い傾向にあります。
アパレル業界でAIを活用する方法
アパレル業界が抱える課題を解決するうえで、AIは大きな可能性を秘めています。具体的には下記のような活用方法があります。
- 単純作業の自動化
- 需要予測
- クリエイティブ制作
単純作業の自動化
AIを活用することで、たとえば下記のような単純作業を自動化することができます。
- 商品情報の入力
- お問い合わせ対応
- 在庫管理
- 発注業務
これにより、従業員にかかる負担を軽減し、より付加価値の高い業務に集中させることができます。また、働き方改革の改善にもつながり、離職者数の抑制や採用候補者数の向上などの効果も期待できます。
需要予測
AIを活用することで、季節性やトレンド、過去の売上データなどをもとに将来の需要を予測することができます。予測したデータは生産計画や在庫管理に活用できるため、売上予測の精度を高めて、適切な販売準備を行うことが可能になります。データ分析に関する「集計」や「分析」の業務時間を大幅に削減できるため、業務効率化につなげることもできます。
とくに在庫リスクが高く、市場変化が比較的激しい商品/サービスを取り扱っている企業におすすめの活用方法です。
クリエイティブ制作
生成AIを活用することで、オンライン販売で使用するキャッチコピーやクリエイティブバナーの制作工数を削減することができます。
実際に、AIライティングアシスタントサービス「Catchy」を利用すれば、広告のキャッチコピーやセールスレターの作成など、テキストクリエイティブの自動作成が可能です。また、Adobe Fireflyを利用することで商用利用可能な画像クリエイティブの制作もできます。生成したクリエイティブをそのまま利用したり、デザインアイデアのインスピレーションとして活用したりなど、さまざまな役立て方があります。
「クリエイティブな業務まで手が回らない」「クリエイティブに明るい人材を採用できない」といった悩みを抱えている企業では、生成AIの活用は大きな武器になります。
アパレル業界でAIを活用した企業事例
アパレル業界でAIを活用した企業事例をご紹介します。
株式会社TSI
株式会社TSIが運営するナノ・ユニバースでは、ECサイトにAI技術を搭載したチャットボットを導入しました。自然言語解析技術を活用することで、AIがお問い合わせに対して自動で回答をする仕組みになります。本機能の実装により、お客様はちょっとした困りごとからスタイリングの相談まで、24時間無料で質問することが可能です。自宅にいながらショップと同じような接客体験を受けられます。
参照:ナノ・ユニバースのカスタマーサポート チャットスタッフ | ナノ・ユニバース直営通販サイト
株式会社ワークマン
株式会社ワークマンでは、約10万品目の発注業務を自動化するシステムを一部店舗で導入しました。日立製作所が提供する「Hitachi Digital Solution for Retail/AI需要予測型自動発注サービス」を活用し、欠品抑制に取り組んでいます。商品の売れ行きに応じてアルゴリズムを切り替えることで、精度の高い需要予測を実現しました。従来までは、各店舗で約30分/日を要していた発注業務を、約2分/日にまで短縮できたようです。
参照:ワークマン/「AI需要予測型自動発注」全店導入へ、発注業務を2分に短縮|流通ニュース
株式会社ZOZO
株式会社ZOZOが運営するショッピングECサイト「ZOZOTOWN」では、類似アイテムの検索機能が実装されました。本機能は、画像検索アイコンをタップするだけで、類似アイテムが一覧で表示される仕組みになります。
お客様は「この写真と似た色(柄)のアイテムがほしい」といった場面で本機能を利用することで、欲しい商品にまで辿り着くことができます。実際に、ユーザーへのテストを行なったところ、利用者は非利用者に比べてサービスの滞在時間が4倍以上長く、利用率の向上につながったようです。
同社では、令和元年を「ZOZO AI化元年」と位置付けており、今回の機能導入は第一弾の取り組みになります。今後も引き続きZOZOTOWNやWEARを中心とした各サービスにて、AIの導入を進めていくようです。
参照:ZOZOTOWN、AIを活用し、閲覧商品と似ている商品を検索できる「類似アイテム検索機能」を本日より導入|株式会社ZOZO
アパレル業界でAIを活用する際の注意点
アパレル業界でAIを活用する際には、下記の注意点に気をつけましょう。
- ルールやマニュアルを整備する
- AIに対する社員の理解を深める
- 導入後の運用改善に取り組む
ルールやマニュアルを整備する
AIを活用する際には、従業員がAIを活用しやすいような環境づくりを行うことが重要です。具体的には、全社員が閲覧できるルールやマニュアルを整備する必要があります。AIの利用範囲や責任範囲、倫理的な利用方法、入力してはいけない情報などをガイドラインとしてまとめます。導入前に周知することはもちろん、導入後にも定期的な更新や共有を行いましょう。
AIに対する社員の理解を深める
社内でAIの活用を進めるためには、社員一人ひとりがAIに対する理解を深める必要があります。定期的に勉強会を開いたり、ナレッジを共有するチャットを作成したりなど、組織側での工夫が求められます。また、新しく入社する新入社員や中途社員への研修も欠かせません。積極的な活用を進めるには、積極的な推奨が必要です。既存社員が行う実際の利用方法などの事例も紹介しつつ、具体的に利用するイメージを湧かせましょう。
導入後の運用改善に取り組む
AIは導入して終わりではなく、その後の運用が鍵になります。初期の段階で精度が低くても、その後の運用次第では着実に学習を進めて、高い精度での実装が実現します。定期的なデータのチューニングや異常点検などの運用方針は、あらかじめ明確にしておくことで、担当者やスケジュールが決まり、運用の形骸化を防げます。
まとめ
アパレル業界では、人手不足やトレンド予測の難しさ、オンライン販売への対応などの観点で、さまざまな課題を抱えています。しかし、AI技術の進歩はこれらの課題を解決するための糸口となりえます。AIを活用することで、業務の効率化や販売機会の最大化を図ることが可能です。
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