近年、さまざまな分野でAIの技術活用が進んでいます。そのなかでも、異常検知は注目を集めている分野のひとつです。異常検知とは、データから異常な値やパターンを見つけ出す技術であり、製造業・医療・ITなど、幅広い分野で活用されています。
その背景には、企業が取り扱うデータ量の増加や人手不足による業務効率化の推進など、さまざまな社会事情が存在しています。近年ではデータを正しく、効率的に取り扱える企業がビジネス上での競合優位性を得られます。世界的に市場競争が激しくなるなかで、各企業には最新技術である「AI」の活用が求められているのです。
本記事では、異常検知の種類や活用するメリット、導入の手順などについて解説いたします。最新の技術を活用して、検知精度の向上や生産性の向上に取り組みたい方はぜひ参考にしてください。
異常検知とは
異常検知とは、膨大なデータの中から異常な値やパターンを抽出するシステムのことです。データマイニングという分析手法を活用し、事前に学習した「正のデータ」とは異なる動きを検出します。
たとえば、製造業の検査フローで不良品を検出するという事例がそのひとつです。従来までは、いくつかのサンプル品を選定したのち、ベテラン従業員の目視によりチェックが行われるのが一般的でした。しかし、異常検知システムを導入することで、AIがすべての製品に目を通し、不良品を自動で検出することが可能です。
とくに近年では、さまざまなビジネス分野で取り扱うデータの量が増えてきました。人間による目視のチェックや分析では、正確性やスピードに欠けるという課題が各所で生じています。また、人手不足や働き方改革の推進などの背景も相まって、AIによる異常検知の導入は非常に注目を集めています。
異常検知の種類
異常検知には、いくつかの種類があります。
・変化点検出
・異常部位検出
・外れ値検出
変化点検出
変化点検出とは、時間経過とともに変化するデータから、異常な変化点を検出する手法のことです。具体的には「変化が発生したかどうかを検出すること」「変化が発生したタイミングを特定すること」ができます。製造ラインにおける製品の品質データや、ネットワークトラフィックのデータ分析などに用いられます。
異常部位検出
異常部位検出とは、画像や動画などの空間データから、異常な部位を検出する手法のことです。具体的には「異常な区間が存在するかどうかを検出すること」「異常な区間がどこで発生するのかを特定すること」ができます。医療画像における病変の検出や、製品検査における欠陥の検出などに用いられます。
外れ値検出
外れ値検出とは、データ分布から極端に離れた値(外れ値)を検出する手法です。具体的には「外れ値が存在するかどうかを検出すること」「外れ値の値を特定すること」ができます。クレジットカードの不正利用の検知や、センサーデータの異常検知などに用いられます。
異常検知でAIを活用するメリット
異常検知でAIを活用するメリットは下記の4つです。
・ヒューマンエラーを防止できる
・人件費を抑制できる
・業務属人化を防止できる
・全数検査が可能になる
ヒューマンエラーを防止できる
人間による目視の検査では、どうしても見落としや誤判定といったヒューマンエラーが発生してしまいます。一方でAIを活用することで、人間の目視では実現できなかった高い精度での異常検知が可能です。
異常検知を取り入れる現場では、多くの場合「ミス」が許されない場合がが多いでしょう。とくに製造現場や医療現場でのケースが代表的です。画像認識技術や音声認識技術を活用し、事前に正しいデータをAIに学習させることで、ミスが起こる確率を限りなく0に近づけることができます。
人件費を抑制できる
異常検知の作業を自動化することで、人件費を抑制することができます。
近年では、人手不足や物価高の背景から人件費が高騰しています。厚生労働省によると、最低時給は2018年の874円から、2022年には961円にまで上がりました。※全国加重平均額(時間額)
また、取り扱うデータの量が膨大になるほど、必要な配置人数は増えてきます。今後、人手不足の影響により、ますます採用が難しくなれば、給与(人件費)も必然的に上げざるを得なくなる場面が来るでしょう。AIを活用することで、一人ひとりの業務負担を削減し、必要な配置人数を抑えて人件費を抑制することができます。
業務属人化を防止できる
異常検知における基準が曖昧な場合、担当者によって判断基準が異なるケースが生じます。何が「正常」で、何が「異常」か、判断が属人化することで、業務そのものが属人化してしまう恐れがあるでしょう。
異常検知の業務では高い習熟度が求められるため、育成の難しさから、多くの現場ではメンバーの高齢化が目立つことが実情です。一方で、AIを活用することで客観的な基準に基づき異常検知を行えるため、業務属人化を防ぐことができます。また、メンバーの高齢化により生じる技術継承の壁を乗り越えることも可能です。
全数検査が可能になる
AIによる異常検知では、膨大なデータ量に対して高速で処理を行うことができます。そのため、従来までは難しかった全数検査が可能になり、検査漏れを防ぐことができます。
とくに近年では、食品製造の現場で発生した異物混入のニュースが後を絶ちません。AIを導入することで、このような事件が発生するリスクを最小限まで抑えることが可能です。
異常検知でAIを活用できる分野
異常検知の現場で、AIを活用する分野としては下記の業界が挙げられます。
・製造業界
・医療業界
・IT業界
製造業界
製造業界の現場では、製品検査・設備の故障予測・生産工程の異常検知などが行われます。
とくに製造現場では、安全性の観点から高い検知精度が求められます。たとえば異常検知の段階で不良品を検出できなかった場合には、大規模なリコールを行う必要があるでしょう。
また、工場内で設備故障が発生した場合、製造が一時的に停止にまで追い込まれる可能性があります。事前に故障を予測できれば、修理の手配を行い、製造の停止を未然に防ぐことが可能です。このように、製造業界の現場ではリスクマネジメントの観点でAIの導入が必要になります。
実際に製造業界の現場でAIを導入した企業事例をご紹介します。
キユーピー株式会社では、惣菜の原料となるカット野菜の検査工程で、画像解析メカニズムの導入をスタートさせました。これにより、AIが混入物の有無を確認できるようになります。
従来までの方法では、混入物がある(=不良)状態をAIに学習させるのが一般的でしたが、不良のパターンは無限にあり、高い検知精度を実現するのは困難というのが通説でした。しかし同社では、あえて混入物がない(=良品)状態をAIに学習させることで「良品」以外の状態はすべて「不良」として検出できるようになり、検査精度が飛躍的に向上したようです。今後はグループ内での展開を進めるほか、同様の課題を抱えている原料・食品メーカーへの提供も検討されています。
参照:AIを活用した原料検査装置をグループに展開 | ニュースリリース | キユーピー
医療業界
医療現場では、画像診断・病変検出・患者の状態監視などで異常検知の技術が活用されています。検査精度の向上はもちろん、人手不足が叫ばれる医療現場でオペレーションの効率化が期待できます。
実際に医療業界の現場でAIを導入した企業事例をご紹介します。
一般財団法人 児玉報謝会 新成病院では、株式会社デンセツ工業が提供する「顔認証AI」を搭載した「徘徊検知ソリューション」を導入しました。院内に設置された顔認証カメラとIoTセンサーが、認知症患者の異常行動や無断外出を検出した場合、看護師のスマートフォンへ通知を送ります。また、徘徊の可能性がある患者の顔写真を事前に登録することで、人物の特定まで可能です。
本システムの導入により、看護師の負担となる業務を効率化するだけでなく、患者本人やその家族への安心安全にまでつながります。また、待機室にもAIカメラやIoTセンサーを導入することで、3密の回避や安全な環境づくりに努められているようです。同院では今後、本システムのさらなる有効活用を検討されています。
IT業界
IT業界では、不正検知やシステム障害の予測などでAIが活用されています。システム上で異常が検知された場合、すぐに担当者へ通知を送ることで、トラブルを最小限に抑えることが可能です。
実際にIT業界の現場でAIを導入した企業事例をご紹介します。
三井住友カード株式会社では、ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社が提供する不正検知システムを導入しました。具体的には、加盟店でキャッシュレス決済が行われたあとに通過する「VisaNet」に、不正検知システムであるVRMを導入することで、不正取引を検知する仕組みです。
同社では、従来から24時間365日体制でカード取引のモニタリングを実施していましたが、さらなるセキュリティ管理を求めるなかで、従来のモニタリングに加えて、AIによる不正検知の導入を決められたようです。
参照:三井住友カード、VisaのAIリスクソリューションを不正検知システムとして導入|ニュースリリース一覧|会社案内|クレジットカードの三井住友カード株式会社
異常検知でAIを導入する手順
AIを導入する際には、下記の手順で進めます。
・構想
・検証
・実装/運用
構想
まずは導入の目的を明確にします。そして、対象となるデータや必要な機能などの開発与件を整理しましょう。構想の段階では、現在の状況や課題、目標とする姿をできるだけ具体的に把握することが重要です。
一度作成した構想は、関係部署の間で「過不足がないか」を確認します。構想の段階から、関係者間での相違がないことを丁寧に確認することで、後工程で発生する手戻りを未然に防ぐことができます。
また、異常検知でAIを導入する場合、センサーの設置が必要なケースもあります。とくに画像認識技術や音声認識技術を活用するためには、正しいデータを検知する仕組みが求められます。構想の段階から、必要となる機材もあわせて検討しましょう。
検証
構想ができたら、実際にシステムの開発を行います。一度開発をしたら、まずはテスト環境で検証を行いましょう。複数のAIモデルを比較し、最適なモデルを選択します。
AIには下記4つの学習方法があります。
・教師あり学習
・教師なし学習
・半教師あり学習
・強化学習
事前に正解データを用意するのが「教師あり学習」です。一方で、正解データを与えずにAIに学習させる方法が「教師なし学習」になります。また、半教師あり学習とは「教師あり学習」と「教師なし学習」の中間で、正解のラベルをつけたデータと、何もラベルをつけていないデータを学習させる方法のことです。強化学習とは、エージェントと呼ばれるAIシステムが、試行錯誤を繰り返しながら、報酬を最大化する行動を自律的に学習していく手法を指します。
異常検知の場合、あらかじめ正解となるデータを用意する「教師あり学習」で取り組むのが一般的です。また、検証の段階では「精度に問題はないか」「さらに精度を高めるために必要なデータはないか」などもあわせて確認が必要です。
実装・運用
検証段階で実運用のレベルまで開発できたら、実際に選定したAIモデルをシステムに実装し、運用を開始します。AIは導入して終わりではなく、導入後の保守運用が重要です。精度を高めるために定期的なチューニングをしたり、異常がないことをモニタリングします。
また、組織体制の構築も重要です。AIの精度を高め続けるには、AIに対する知見を持った人材を社内で育成する必要があります。実際に操作をしない従業員にも、教育を行い、AIに対する理解と協力を推進する社内文化の醸成が欠かせません。AIの導入担当者が不在になった場合でも、保守運用ができるような体制構築にも力を入れましょう。
異常検知でAIを活用する際の注意点
異常検知でAIを活用する際の注意点は下記の2つです。
・データの偏りを防ぐ
・誤作動への対策を検討する
データの偏りを防ぐ
AIに学習させるデータに偏りがある場合、AIモデルの精度が低下する可能性があります。「異常」な値を「正常」と判断し、誤った検知をする可能性があるため注意が必要です。データセットはできるだけ多様化させて、偏りを防ぐことが重要です。とくに異常検知の技術を実用レベルまで高めるには、さまざまなパターンを学習させる必要があります。
自社での開発には限界があるため、画像認識や音声認識など、それぞれの分野で強みを持つ支援会社に協力を求めるのが良いでしょう。
誤作動への対策を検討する
AIモデルは誤作動を起こす可能性があります。誤作動が発生した場合の影響を最小限に抑えるために、あらかじめ対策を検討する必要があります。たとえば人間による目視確認を一部のみ取り入れたり、定期的にデータセットを更新したり、異常値が出たらすぐにアラートが発生するような設定にしたりなど、さまざまな工夫が求められます。
AIを導入しても例外的な事象は発生するものです。「誤作動は発生しない」と考えるのではなく、「仮に誤作動が発生したらどのように対応するのか」「誤作動の発生をどのように防ぐのか」などは事前に考えたうえで、導入を進めていきましょう。
まとめ
AIによる異常検知は、さまざまな分野で有効なツールです。導入にあたってはメリットだけでなく、注意点も理解したうえで検討することが重要です。とくに異常検知の分野では、小さなミスが大きな事故につながる可能性もあります。自社だけの開発に留めるのではなく、専門の支援会社に相談をするのがおすすめです。
株式会社オルツでは、パーソナル人工知能を中心としたAI活用・LLM開発・DX推進を支援しています。さまざまな業種業界に特化した音声認識エンジンAPIをご提供しているため、貴社のアプリケーションやシステムとの連動にもご活用いただけます。
その他にも言語処理・画像処理/認識・データマイニングなど、多方面での開発が可能です。ヒアリングからコンサルティング、実証実験、開発、運用まで一気通貫でご支援いたします。少しでもご興味のある方は、下記のお問い合わせフォームよりご連絡ください。