経済状況や人口減少の影響を受けて、不動産業界は今後さらなる変革期を迎えることが予想されています。とくに国内需要の低下や人手不足による影響は、各社共通の懸念として挙げられており、新しいビジネスチャンスの創出や既存業務の効率化は、もっとも注目度の高いトピックであるといっても過言ではないでしょう。
こうした課題を克服して、持続的な企業成長を実現するために「AI技術」の活用が近年注目を集めています。AI技術は単純作業の自動化やデータ分析による意思決定の支援、顧客とのコミュニケーションの円滑化など、幅広い分野で活用が期待されているものです。
本記事では、不動産業界が抱える課題とAI技術を活用するメリット、具体的な活用事例などを中心に解説していきます。ぜひ参考にしてみてください。
不動産業界が抱えている課題
不動産業界でAIを活用する方法をご紹介する前に、まずは不動産業界が現在抱えている課題について解説いたします。
国内需要が低下する
日本国内の人口は、少子化の影響を受けて減少の傾向にあります。
実際に、総務省統計局の調査結果によると、2022年10月の総人口は1億2,494万7千人で、前年に比べて55万6千人の減少となり、12年連続の減少であることがわかりました。また、この傾向は今後も続くことが予想されており、総務省の資料によると2050年には人口が9,515万人となり、1億人を下回るといわれています。
このような社会背景を受けて、新築住宅や新築マンションの建設ニーズも同様に低下することが予想されます。また、婚姻数の低下による戸建て需要の低下、テレワークの普及によるオフィス需要の低下など、さまざまな社会変化が後押しすることでしょう。
不動産業界では、各社が生き残りをかけて、サービス内容の差別化や新規ビジネスチャンスの模索などに取り組むことが求められています。
人手不足が深刻化する
少子高齢化の影響から働き手(とくに20〜40代)が不足し、不動産業界でも人手不足がますます深刻化することが予想されています。
実際に厚生労働省の調査によると、2021年における不動産業界の入職者数は87.2千人であったのに対して、離職者数は90.7千人という結果となりました。この結果から分かるように、すでに離職者数が入職者数を上回っている状況であり、人手不足の問題は現在進行系で発生しているといえます。各社には、入職者数が増えるような積極的な採用活動や、離職者数が減るような賃金・働き方の改善などが求められるでしょう。とくに近年では、社会全体で「働き方」が見直されるようになり、従業員側もワークライフバランスを強く意識する傾向にあると言われています。働き手にとって魅力のある会社であり続けるためには、まずは業務量の見直しや業務効率化に取り組み、長時間労働を削減することが重要です。
データ管理の工数が増大する
不動産業界の各社では、物件情報や顧客情報などの膨大なデータを取り扱っているでしょう。これらのデータを効率的に管理・分析することは、業務効率化や顧客満足度向上にとって重要な取り組みになります。
先述した通り、これからの不動産業界では競争が過熱し、各社でサービス内容の差別化や新しいビジネスチャンスの模索が求められます。過去のデータは事業成長の鍵となり、ときには武器にもなり得るものです。
その一方で、データの管理・分析にはマンパワーやスキルが必要になります。専門人材の採用は難しく、市場全体で取り合いの状況であることが容易に想像されます。各社には、誰でもデータを管理・分析できる基盤の構築、社員のスキルアップなどが求められるでしょう。
適正価格を決めるのが難しい
不動産価格は、立地条件・築年数・周辺環境など、さまざまな要素を考慮したうえで決められます。経験豊富な担当者でも、適正価格を判断することは難しく、価格設定の誤りが顧客離れを引き起こす原因であるという側面も考えられるでしょう。
もちろん不動産は1軒1軒が異なるものであり、必ずしも同じ物差しで評価できるものではありません。一方で、価格設定は顧客・オーナー・不動産会社の3者にとって重要なものであり、人間が介在することで基準がズレてしまうことは課題として挙げられるでしょう。
マッチング(仲介業務)が非効率的である
不動産業界では、顧客と物件のマッチング(仲介業務)に時間がかかることが課題として挙げられます。担当者は、顧客の希望条件に合致する物件をリストアップして、空き状況の確認、内覧の案内、契約の手配など、物件が確定するまでにさまざまな工程を経る必要があります。
なかでもリストアップの業務は大きな負担がかかるものです。手作業で行われることも多く、丁寧にリストアップをしたつもりが、かえって時間をかけてしまったことで、顧客が離れてしまうというケースも珍しくありません。いくつかの条件をもとに機械的にリストアップをする場合、AIを活用して自動化することも1つの手段として考えてよいでしょう。
不動産業界でAIを活用するメリット
不動産業界では、AIの活用で解決できる課題が多数存在します。
そもそもAIとは、人工知能(Artificial Intelligenceの略)のことであり、一般的には人間のような知能を持つコンピューターのことを意味します。画像認識・音声認識・言語処理・推論など、さまざまな機能を有しており、ビジネスの現場では近年活用の幅が広がっています。
不動産業界では、とくに下記の観点から活用のメリットがあると考えられます。
・業務を効率化できる
・データ活用を促進できる
・顧客満足度を向上できる
業務を効率化できる
AIを活用することで、ルーティン作業を自動化して、さまざまな業務を効率化することができます。人手不足や業務属人化の解消につながり、長時間労働の是正や生産性向上に伴う従業員のパフォーマンス向上などが期待できます。
データ活用を促進できる
AIを活用して膨大なデータを分析することで、顧客のニーズや市場動向を把握することができます。また、AIの分析精度はデータ分析を重ねるごとに高くなり、なかにはデータの“集計業務”だけではなく“分析業務”まで代替するケースも存在します。人間はデータに基づいて意思決定をするだけで済むため、スピード感のあるサービス提供を実現できます。
顧客満足度を向上できる
AIを活用することで、顧客とのコミュニケーションを円滑化し、一人ひとりのニーズに合わせたサービス提供が可能になります。24時間365日の対応、迅速かつ的確な情報提供、顧客に寄り添った提案など、顧客満足度の向上に貢献します。
不動産業界がAIを活用してできること
不動産業界がAIを活用してできることを具体的に紹介いたします。
・単純作業の自動化
・お問い合わせ対応の自動化
・データ管理や分析業務の非属人化
・物件価格の適正化
・マッチング(仲介業務)の時間削減
単純作業の自動化
不動産業界の現場では、単純作業が多く悩んでいる担当者の方も多いのではないでしょうか。具体的には下記のような業務が挙げられます。
・書類や資料の作成
・物件情報の更新
・顧客情報の入力や転記作業
とくにエクセルやパワーポイントを使った業務では、単純作業が発生してしまいがちです。
AIを活用することで、作成・更新方法が定型化された作業(ルーティンワーク)であれば自動化することができます。
とくに近年ではルーティンワークを自動化するソフトウェア「RPA(ロボティクスプロセスオートメーション)」が注目を集めています。なかには技術知識がゼロでもシステムを構築できるツールもあり、導入を検討する企業が増えています。
また、議事録作成の分野でもAIを活用する企業が増えています。AI GIJIROKUを活用すれば、オンライン会議や商談での議事録を自動で作成することができます。業種別の音声認識機能を搭載しており、不動産特有の専門用語でも認識をして書き起こすことが可能です。
音声認識精度は99.8%で発言内容を正しく聞き取れるほか、議事録のサマリー(要約)まで自動で作成することができます。情報共有を円滑に行うことで、意思決定のスピードが早くなり、他社との差別化にもつながるでしょう。
少しでもご興味のある方は、まずはフリープランからお試しください。議事録のチュートリアルと閲覧ができます。
お問い合わせ対応の自動化
不動産業界の現場では、ルーティンワークに加えて顧客対応やお問い合わせ対応に追われている担当者の方も多いのではないでしょうか。
AIを活用することで、下記のような対応はすべて自動化することができます。
・顧客のメール/電話対応
・よくある質問への自動回答
・内覧予約の受付/日程調整
事前に回答のシナリオを学習させることで、わざわざ文章を「作成」して「送信」するという手間を削減することができます。また、電話対応については「担当者」と「用件」をヒアリングして、転送したり、チャットに通知を送ったりすることも可能です。
データの管理や分析業務の非属人化
不動産業界の現場では、ルーティンワークやお問い合わせ対応に日々追われてしまい、データの管理や分析までなかなか手が行き届かないというケースも多いでしょう。
AIを活用することで、下記のような機能を実装して業務効率化を図ることができます。
・物件情報や顧客情報の統合管理
・物件/顧客情報の条件検索機能
・ダッシュボードによるデータの可視化
特定のスキルを持つ人材に限られていた「データ分析」の業務を一般化することで、データドリブンな顧客対応や事業運営を実現することができるでしょう。
物件価格の適正化
物件価格の適正化は、顧客・オーナー・不動産会社の3者にとって重要な課題になります。
AIを活用することで、下記のような業務を自動化することができます。
・机上査定の自動化
・周辺環境や市場動向の分析
・適正価格のシミュレーション
不動産査定には「机上査定」と「訪問査定」の2種類がありますが、AIを活用することで前者を一瞬で完了し、すぐに訪問査定に移ることができるでしょう。価格の適正化だけではなく、スピード感の向上にもつながります。
マッチング(仲介業務)の時間削減
マッチング(仲介業務)は、不動産仲介会社の役割である一方で、従来まで必要以上の工数が発生していた業務になります。
AIを活用することで、本業務に関わる下記のような作業を効率化することができます。
・希望条件のヒアリング
・条件に合致する物件の提案
回数を重ねるごとに学習データが蓄積し、マッチング精度が高まることで、顧客の希望に合致した物件を紹介できるようになります。担当者の負担削減や紹介スピードの短縮だけではなく、顧客の満足度向上にもつながるでしょう。
不動産業界でAIを活用した事例
不動産業界でAIを活用した取り組みを、実際の企業事例とあわせて紹介いたします。
株式会社オープンハウス
株式会社オープンハウスでは、自社で開発したAIシステムを活用して、住宅チラシの作成業務を自動化することに成功しました。作成にかけていた1万1250時間に加えて、その審査に必要な1085時間を年間で削減することができたようです。
また、作業時間の効率化だけではなく、クオリティの均一化にも効果がありました。営業マンのなかにはチラシの作成が上手な人もいれば、苦手な人もいます。AIを活用したことでスキルの偏りを減らし、営業マンがメインの業務に集中できるような環境作りにつながったことが想像できます。
参考:ITmedia(「年1万時間の業務削減」自社AIで成し遂げたオープンハウス カギは住宅チラシの自動作成 キーパーソンに聞く舞台裏)
株式会社レオパレス21
株式会社レオパレス21では、AIチャットボットを導入して、入居者からのお問い合わせの応答率を70%弱から約90%に改善することに成功しました。「エアコンが動かない」「鍵をなくした」といった毎月約3万件に上るお問い合わせに対して、よくある回答については自動で回答ができるようになったようです。
参考:日経XTREND(レオパレス21が入居者対応にAIチャットボット 応答率20%改善)
三井不動産株式会社
三井不動産株式会社では、AI画像解析サービスを導入することで、オフィスビル内の混雑状況や属性分析を実現。客観的なデータをもとに人流を可視化することで、テナントの営業時間の見直しに活用されているようです。
参考:TECH+(AIを使ってオフィスビルを見える化! 三井不動産が取り組む不動産テックの最新事例)
東急リバブル株式会社
東急リバブル株式会社では、自社で開発したAIシステムを活用して、不動産価格のAI査定を実現。AIによる推定と実際の価格差を中央値で1.98%(最大で7.96%)の誤差に抑えたうえで、査定にかかる時間を年間約1万5000時間削減する見込みであることを発表しました。
参考:ITmedia(東急リバブルがマンション価格査定AI開発 誤差1.98% 査定業務を年間1万5000時間短縮へ)
株式会社ウィル
株式会社ウィルでは、物件紹介サービス「AIウィルくん」を開発。約37万件の物件データと約1万2,000組の成約データ、約1万件の地理データなどをもとに、AIが自動で物件を提案してくれます。わざわざお客様が物件を検索することなく、マイページでおすすめの物件が更新される仕組みのため、思いがけない物件と出会える楽しみもあるサービスです。
参考:株式会社ウィル(AIウィルくんの『住まい提案サービス』)
まとめ
AIは不動産業界が抱えている課題を解決し、業務効率化と顧客満足度の向上を実現する可能性を秘めた技術です。技術レベルは今後ますます発展をし、業界全体に普及していくことが予想されます。
膨大なデータをもとに顧客の行動履歴や趣味嗜好を分析し、最適な物件を提案できるようになります。不動産業界は大きな変革を迎え、より顧客を中心としたサービス提供へシフトしていくことが考えられるでしょう。また、AI技術は従来の仲介業務だけではなく、新たなビジネスモデルの創出にも貢献することが期待されています。
株式会社オルツでは、パーソナル人工知能を中心としたAI活用・LLM開発・DX推進を支援しています。とくに音声技術に強みを持っており、自動議事録ツール「AI GIJIROKU」やコールセンターの自動応答サービス「AI コールセンター」をはじめとして、さまざまなツールをご提供しています。また、不動産業界を含む業種特化の音声認識エンジンAPIをご提供しているため、貴社のアプリケーションやシステムと組み合わせて、新規ビジネスの模索にもご活用いただけます。
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