近年、急速に発展を遂げているAI。教育分野でも便利なAIサービスが登場していることはご存知でしょうか。教育が抱える課題を解決に導く手法として注目されており、導入する学校も増えています。
本記事では、教育現場にAIを導入するメリット・デメリットを解説したうえで、実際の活用事例をご紹介します。AIで課題を解決したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
教育 業界で起きている問題・課題
教育業界が抱えている代表的な課題として、教師の労働環境が挙げられます。文部科学省が行った調査によれば、教師の1日あたりの在校等時間は小中高すべての校種で10時間を超えているのです。(参考:教員勤務実態調査(令和4年度)【速報値】|文部科学省)
労働基準法では、原則として1日に8時間以上労働させてはならないと定められているため、一般的な労働時間よりも多いことがわかります。近年は教師の長時間労働が話題になり、志望者の減少や退職者の増加で全国的に教師不足になってしまっているのです。
教師不足が進んでしまうと、一人ひとりの児童・生徒に対して細やかなフォローができなくなり、授業についていけない子どもが増えてしまうことにつながります。
教師の労働環境を改善することは、良い学習環境の提供に直結するため、早急な解決が求められる課題なのです。
教育 にAIを活用するメリット
教育にAIを活用することで得られるメリットは、以下の5点です。
- 個々に応じた教育を実現できる
- 客観的に授業や教材を評価できる
- 子どもの成績を正確に分析できる
- 教師の負担を軽減できる
- 教育の低コスト化が実現する
個々に応じた教育を実現できる
教育にAIを導入すると、個々に応じた教育の実現につながります。教師1人で見られる人数には限りがあるため、一人ひとりに対して手厚いフォローをするのが難しい場面があるのは否めません。
その点、AIを活用すると個々の理解度に応じた提案が可能になります。「間違えた問題から傾向を分析して苦手な分野を中心に出題する」「問題を解く過程を分析してどこでつまづいているのかをハッキリさせる」といったこともできるのです。
人力だけでは難しかった個々に応じた教育を実現できるのは、AI導入のメリットといえます。
客観的に授業や教材を評価できる
客観的に授業や教材を評価できる点もAI活用のメリットです。
授業や教材は数値で評価することが難しいため、どうしても個人の主観が入ってしまいます。また、客観的な指標として理解度に関するアンケートを取ったとしても「集計が大変」「評価につながらない回答がある」などの課題がありました。
AIはデータの分析や分類が得意なので、アンケートの集計や傾向を捉えることに長けています。また、授業の録画を分析して教師と子どもの話す時間を割り出し、一方的な授業になっていないかを確認することも可能です。
客観的で正確な授業の評価は、教師自身のスキルアップにもつながります。
子どもの成績を正確に分析できる
教育にAIを活用するメリットに、子どもの成績を正確に分析できる点も挙げられます。
成績は、基準に従って教師がつけていますが、人間が行っているという点では必ずしも平等であるとは言い切れません。特に記述問題は採点者の主観が入りやすく、一律な基準での判断は難しい領域です。
AIは感情や主観なしでデータをもとに判断するため、同じ基準に基づいた正確な成績を出すことが可能です。記述問題で言えばAIの自然言語技術によって、解答に必要な要素が入っているかを分析し、高い精度で採点ができます。
AIを活用することで従来よりも平等性が担保でき、誰もが納得できる評価につながるでしょう。
教師の負担を軽減できる
教育分野にAIを導入すると、教師の負担軽減につながります。
教師は授業だけでなく、事務作業や採点、行事運営などやるべき業務が多くあります。AIを活用すると自動化できる業務が増えるため、これまで教師が行っていた業務を減らすことが可能です。早期解決が求められる教師の長時間労働の改善にもつながるでしょう。
また、AIによって生み出された時間で、本来時間をかけたい授業準備や個別指導を優先できるため、子どもにとってもメリットがあります。
教師の労働環境改善、子どもに直接関係する時間を優先できるといった点は、AI導入で生まれる利点と言えます。
教育の低コスト化が実現する
教育にかかるコストを削減できる点もAI導入のメリットです。
必ずしも教師がやらなくても良い業務を任せられる人材がいれば、教師の負担を減らすことにもつながります。しかし、雇用を増やすと人件費も比例して増えてしまうため、現在のように教師が多くの業務を行う状況になってしまっているのです。
そこで人がやらなくても良い業務をAIに任せれば、自動化して効率よく業務を遂行できるようになります。人件費を削減しつつ、生産性向上や業務負担軽減が実現できるのはAI活用の長所といえます。
教育 にAIを活用するデメリット
教育にAIを活用することには多くのメリットがありますが、知っておきたいデメリットもあります。両者を踏まえたうえで導入するべきかどうかを検討しましょう。
- 大量の教師データが必要になる
- 考える力が失われるおそれがある
- 雇用の減少につながる
大量の教師データが必要になる
AIの力を最大限に発揮するためには、大量の教師データが必要です。教師データとは、AIに学習させるデータのこと。AIは学習したデータをもとに処理するため、不足していると精度が低くなってしまいます。
たとえば、採点業務にAIを使うなら大量のテスト結果が必要となるため、データを集めるところから始めることになるでしょう。教師データを蓄積する労力や時間がかかることは理解しておきたい点です。
考える力が失われるおそれがある
AIの活用方法によっては、考える力が失われるおそれがあります。たとえば、間違えた問題からやるべき学習を導いてくれるAIを活用した場合、自分で「この分野を克服するために必要な学習は何か」を考える必要がなくなってしまいます。
AIに提示されるがまま学習を進めることは、学ぶ楽しさを感じにくくなるリスクもあるといえるでしょう。子どもが自ら考え、学ぶ姿勢を身につけることはAIにできないことなので、人が行う必要があります。
雇用の減少につながる
AIにより自動化できる業務が増えると、そのぶん雇用が減少するリスクが高まります。特にAIが得意とする単純な事務作業は、人間が行うよりも高い精度で効率よく行えるようになるため、わざわざ人力に頼る必要がなくなってしまう可能性があるのです。
AIが得意なことは任せて、AIにできないことを人間が行う「AIとの共存」が今後進むことが予想されます。人間にしかできないことは何かを考えながら、教育に携わることが求められるでしょう。
AI 活用した教育サービス
近年、AIを活用した教育サービスが続々と提供されています。ここでは、代表的な教育サービスを5つご紹介します。
- 【AI学習教材】すらら
- 【AI学習教材】Qubena
- 【AI学習教材】atama+
- 【英語学習サービス】TerraTalk
- 【卒業アルバム制作】アルバムスクラム
【AI 学習教材】すらら
すららは、小学校高学年から高校生を対象としたAI搭載型の学習教材です。
システムが間違った問題から自動的につまずいている部分を診断し、克服するために必要な問題を出題してくれます。これにより、つまずきをそのままにせず、しっかり理解できるようになってから次の単元に進むことが可能です。
【AI 学習教材】Qubena
Qubenaは、小学生から中学生までを対象としたAI搭載型の学習教材です。つまずきの原因が過去の単元や前の学年にあったときでも、単元や学年を超えて克服に必要な問題を提示。どこからつまずいているのかがわかります。
また、問題はQubena上で一斉配信できるため、問題演習や宿題などのためにプリントを印刷する手間も省けます。児童採点により正答率もすぐ把握できるため、教師の負担軽減にもつながるサービスです。
【AI 学習教材】atama+
atama+は、中学生から高校生までを対象としたAI搭載型の学習教材です。問題を解くことでつまずきの原因を特定し、理解度に合わせた「自分専用カリキュラム」を作るのが特徴に挙げられます。
今必要な内容や難易度の問題を提示し、どの順番で学習すると良いのかまでアドバイスをくれるため、迷わず弱点克服に取り組めるサービスです。
【英語 学習サービス】TerraTalk
TerraTalkは、教育機関向けの英語学習アプリです。小学生から社会人まで幅広い年代で活用でき、さまざまな学習ニーズに対応しています。
TerraTalkではAIと音声でやり取りして、英語学習で不足しがちな発話を補完できます。うまく話せなかったときは言い直すことが可能です。画面に出てくるフィードバックやヒント、辞書機能を使って、「どう話せばよかったのか」を理解できます。
【卒業 アルバム制作】アルバムスクラム
アルバムスクラムは、卒業アルバムの制作業務をサポートするサービスです。卒業アルバムは写っている児童・生徒が偏らないよう、従来は教師が登場回数を数えて写真を選定していました。アルバムスクラムを使えば、AIが登場回数とシーンのバランスを考慮して写真を候補に出してくれるため、教師の負担を大幅にカットできます。
また、原稿データをアルバムスクラムにアップロードすると、すぐに「誰が」「どこに」「どのくらいの大きさで」写っているかが表示されるため、最終チェックも簡単です。
全国2,000校ですでに導入されており、教師の働き方改革にも寄与しています。
教育 ×AIの導入・活用事例
さまざまなAIサービスがありますが、教育ではどのように導入・活用されているのでしょうか。ここでは、教育×AIの活用事例を6つご紹介します。
- 【AI教材の活用①】東大阪市立高井田東小学校
- 【AI教材の活用②】越知町立越知小学校・越知中学校
- 【AI教材の活用③】木村塾
- 【生成AIの校務活用】春日井市立高森台中学校
- 【プリントやテストの自動採点】杉並区立荻窪中学校
- 【授業の可視化】彩都の丘学園
【AI教材の活用①】 東大阪市立高井田東小学校
東大阪市立高井田東小学校では、AI搭載型学習教材「Qubina」を導入しています。小学校6年間の算数を復習する単元では、既習事項の復習と定着をねらいとし、一人ひとりの理解度に合わせた出題をするために活用されていました。
授業では、事前にQubina上で作成したワークブックに全員が取り組み、全体でポイントを確認。その後、理解度に合わせて課題を選択し、問題演習を行います。児童が問題を解いている間、教師はQubinaマネージャーで学習状況を把握しながら机間指導できるため、必要なときに必要な声掛けをすることが可能です。
授業をしていた教師は「Qubinaは子どもたちの正答率や一人ひとりのつまずきがすぐにわかる点が魅力」と話しています。
【AI教材の活用②】 越知町立越知小学校・越知中学校
高知県越知町では、小学校から中学校への円滑な接続や基礎学力の定着・学力向上を目的に「デジタルドリル活用実証研究事業」を行っています。越知小学校・越智中学校では、AI搭載型学習教材「すらら」を導入し、学校での授業や家庭学習で活用しています。
すららを実際に使っている児童は「わからない問題があっても、すぐに前の学年の内容に戻って確認できるのが良い」「予習・復習ができるようになって算数の成績が上がった」と使う良さを感じていました。
教師も「プリントの採点・添削・記録にかけていた時間がAIで短縮され、空いた時間で子供たちに向き合えるようになった。業務改善につながったのは大きい」と話しています。
【AI教材の活用③】 木村塾
兵庫と大阪で学習塾を展開する木村塾では、atama+を活用した授業を行っています。生徒はタブレットを用いてatama+で出題される問題を解き、教師は生徒の学習状況を把握しながら適宜指導を行います。
生徒は「わからないところがあったときに動画で見返せるから使いやすい」「まぐれで当たったところも見抜いて、自分の苦手がなくなるまで何回も問題を出してくれるのが良い」と話していました。
木村塾ではatama+の導入後、全受講生のテスト(英数)の点数が平均で12〜13点上がったという結果が出ており、学力向上にもつながっています。
【生成AIの校務活用】 春日井市立高森台中学校
春日井市立高森台中学校では、生成AI「ChatGPT」を校務に活用しています。管理職から活用を始め、教頭の業務の1つである「保護者への案内状作成」「研修企画」で業務効率化を実現しました。
教頭は以前、緊急で保護者にお知らせメールを作成しなければならない事態があったとき、生成AIを利用して数分後にはメールを送信できたそうです。業務効率化だけでなく、緊急を要する場面でも活躍していることが伝わります。
【プリントやテストの自動採点】 杉並区立荻窪中学校
杉並区立荻窪中学校では、プリントやテストの自動採点でAIを活用しています。答案をスキャンしてデータ化し、採点システム「百花繚乱」に入れることで、事前に読み込ませた模範解答をもとに採点してくれます。
百花繚乱を使っている教師は「残業時間が半分になった」と働き方改革の面でも役立っている旨を話していました。
【授業の可視化】 彩都の丘学園
彩都の丘学園では、教師の授業力向上を目的にカメラで撮影し、授業の可視化を行っています。映像を画像解析することで児童・生徒の動きを「挙手は赤」「うつむいているのは白」のように表示され、教師が動いた軌跡は赤い点で表されます。
また、教師が発言した割合と児童・生徒が発言した割合を出し、一方的な授業になっていないかを確認することも可能です。AI画像解析による授業の可視化は、特に若手教師の振り返りや研修に役立っています。
まとめ
教育は教育にAIを導入・活用することで、教師の業務負担軽減や子ども一人ひとりに合った指導が実現できます。
実際に活用している学校では「業務改善につながった」「子どもの正答率をすぐに把握できる点が便利」と答えている教師が多く、児童も「前の学年に戻って学習できるのが良い」と話していました。AIが教育にもたらすメリットは大きいと言えるでしょう。
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