近年の不動産業界では、慢性的な人手不足の背景から業務フローの改革が叫ばれています。また、旧来的なビジネスモデルにとらわれず、新しいビジネス機会の創出を求める声も挙がっています。そこで注目を集めるのが「DX（デジタルトランスフォーメーション）」の取り組みです。
本記事では、不動産業界におけるDXの取り組みについて、代表的な事例や推進するメリットを解説します。不動産業界に携わる経営者・DX担当者の方はぜひ参考にしてください。
不動産業界におけるDXとは
不動産業界では、近年急速なデジタル化が進んでいます。このデジタル化を推進する動きを「DX（デジタルトランスフォーメーション）」といいます。とくに不動産業界では、古くから煩雑なアナログ作業が多く、デジタル化による改善の余地が多いと考えられます。
DXの推進は、不動産業界の旧来的なビジネスモデルや業務プロセスを根本から変えて、より効率的で顧客満足度の高いサービス提供を実現します。
不動産業界が抱えている課題
不動産業界では、下記のような課題を抱えている企業が多いです。
- 慢性的な人手不足
- 煩雑なアナログ作業
- 膨大なデータ量
慢性的な人手不足
近年では少子高齢化や働き方改革の進行に伴い、不動産業界でも働き手の新規採用が難しくなりつつあります。ノルマが厳しくハードワークな印象から、若年層の採用に苦戦する企業が多く、実際に国土交通省の調査によると、就業者のうち60歳以上が占める割合は約5割と高齢化が進んでいるようです。若年層の入社が減少してしまうと、ノウハウを継承できず、中長期的には事業の存続が難しくなる恐れがあります。
煩雑なアナログ作業
不動産取引では、物件情報の管理や契約書の作成、顧客対応など、数多くの事務作業が伴います。これらの作業は、従来まで紙の書類ベースで行われており、時間と手間がかかるうえに、ミスが多発するといった問題がありました。ミスが発生することで手戻りや修正にも時間がかかり、長時間労働の原因となります。また、従業員のモチベーションを低下させる原因となり、人手不足を誘発させてしまう恐れもあります。
膨大なデータ量
不動産取引には、物件情報・顧客情報・市場データなどの膨大なデータが存在します。これらのデータを効果的に活用するには、高度なデータ分析技術が必要です。データを活用できなければ競合他社に遅れをとる可能性もあるため、各社ではデータを活用できる人材の早期採用/育成が求められています。しかし、高度な技術を持つ人材は各業界で引く手数多のため、採用/育成に苦戦している企業が多いです。
不動産業界のDX事例
先述した課題を解決するために、不動産業界では下記のような取り組みが行われています。
- 電子契約の導入
- オンライン接客の導入
- 不動産管理システムの導入
電子契約の導入
契約書の作成や締結を電子化することで、作成にかかる時間やコストを削減することが可能です。手続きを効率化することで、従業員の負担を抑えられるほか、ビジネススピードを向上させることができます。また、電子署名機能を活用することで遠隔地での契約も可能となり、顧客側の利便性も向上します。
実際に、日神不動産株式会社では2022年5月の宅地建物取引業法（宅建業法）の改正に伴い、契約手続きの電子化を進めました。従来まで、社内では紙の契約に強いこだわりを持つ従業員もいましたが「お客様の印刷代がかからなくなる」などの実利的なメリットを押し出すことで、社内での普及を進められたようです。
参照：お客様はIT化が遅れた不動産会社を選ばない。電子契約で時代に合った顧客体験の実現へ。 | 導入事例| クラウドサイン | 国内シェアNo.1の電子契約サービス
オンライン接客の導入
オンライン上で顧客とコミュニケーションを取り、物件の紹介や質問への回答を行うことで、顧客の満足度向上と営業効率の改善が期待できます。たとえばVR（仮想現実）技術を活用して、遠隔地からでも物件内を見て自由に回れるようなサービスも登場しています。
実際に、Apaman Network株式会社（アパマンショップ）では「オンライン接客」「オンライン内覧」「オンライン重説」「郵送」といった、4つの来店不要なサービスを提供しています。お部屋探しから契約手続きまでを自宅で対応できるようにすることで、顧客からの要望に応えています。
参照：来店しないお部屋探しアパマンショップオンライン【アパマンショップ】
不動産管理システムの導入
物件情報の管理・入居者の募集・家賃の集金など、不動産管理に関わる業務全般を効率化するシステムの導入も進んでいます。一部のシステムでは、AI（人工知能）を活用することで、入居者の属性に応じた物件の提案や、家賃滞納の早期発見などが可能になります。
実際に、オールハウス株式会社では賃貸管理のデータを一元管理することで、作業にかかる時間を40%削減することに成功しました。また、従来まであった「古い情報を参照してしまう」といったトラブルも減少したようです。
参照： オールハウス株式会社様｜いえらぶCLOUDの評判・口コミ【導入事例】
不動産業界でDXを推進するメリット
不動産業界でDXを推進することで、下記のようなメリットがあります。
- 業務効率化の推進
- コストの削減
- 顧客満足度の向上
- 新たなビジネス機会の創出
業務効率化の推進
従来まで手作業で行っていた業務を効率化することで、生産性を大きく向上させることができます。先述したように、近年では各業種・業界で深刻な人手不足の波が訪れています。この状況は今後も長く続くことが予想されるため、「人を増やす」のではなく「システムで解決する」といった方法を模索することが現実的といえるでしょう。
コストの削減
デジタル化を進めるなかで、人件費や印刷代など、さまざまなコストの削減効果が期待できます。とくに人件費に関しては、近年の最低賃金上昇の流れを受けて、固定費の高騰に悩まされている企業も多いでしょう。このようなコストの削減は、一つひとつは小さなものでも、中長期的に見れば大きな武器となります。
顧客満足度の向上
オンライン接客や電子契約書などのデジタル化を進めることで、顧客満足度を向上させることができます。とくに紙書類の手続きは、従業員だけでなく顧客にも手間をかけるものです。このような顧客のニーズに合わせたきめ細やかなサービスは、今後の不動産業界での生き残りを左右するものになり得ます。
新たなビジネス機会の創出
DXを進める過程のなかで、デジタル技術を活用して新たなビジネス機会を創出する可能性もあります。たとえば、データ基盤を整えて分析を行うことで、顧客の潜在的なニーズを把握し、新しい商品やサービスを開発することができます。既存のビジネスとは別の収益源を確保することで、経営基盤の安定化にもつながります。
まとめ
不動産業界におけるDX推進は、経営課題である人手不足を解消し、新たなビジネス機会を創出する取り組みとなります。しかし、DXの推進にはシステムの導入にかかる費用や、従業員のITリテラシーを向上させることなど、さまざまな課題があります。加えて、デジタル技術を社内で普及させるためには、経営層の強いリーダーシップや従業員の意識改革なども不可欠です。
また、システムの導入には技術的な知見が求められます。このような複雑な状況のなかで、着実にプロジェクトを推進させるためには、専門の外部業者に依頼をするのがおすすめです。
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